2012 Fiscal Year Research-status Report
リルケとゲーテの連関に関する実証的・歴史的・哲学的研究
Project/Area Number |
24520369
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
黒子 康弘 日本女子大学, 文学部, 准教授 (50305398)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | リルケ / ゲーテ / 抒情詩人 / 情念 / スピノザ |
Research Abstract |
本研究においては、リルケとゲーテの連関を示す有意味な未公刊書簡をなるべく多く探し出し、複写の収集を行うとともに、その内容の理解に一定の成果を上げることが目指される。たたき台として、これまで公刊された書簡の網羅的目録であるFerenc SzaszのKonkordanz zu den veroeffentlichten Briefen Rainer Maria Rilkes (2006, Aktualisiert von Raetus Luck. 2010)を取り上げ、まずそれとMarbachのSchiller-Nationalmuseumの目録データベースとの照合から研究を開始した。短期間ではあったが上記文書館を実際に訪問し作業を行った。日本でホームページの電子目録の記載を見ただけでは発信の日付すら分からなかった隠れた複数の資料について、その内容と体裁を明らかにすることができた。特に今回の渡独では、1897年に集中して書かれた一連のNora Goudstikker宛書簡のすべての複写を手に入れ、その分析を行い、この時期のリルケのゲーテ観の一端について明らかにできた。また本年度は、この基礎的作業と並行して、リルケ没後最初期に書かれた戦前・戦中の雑誌論文において特にリルケとゲーテの連関がクローズアップされているものを探し、そうしたテーマ設定の背景にある文芸思潮、歴史的背景についての研究を開始した。さらに、「感情Gefuehl」「雰囲気Stimmung」「情念Affekt」などゲーテとリルケに通底する近代ドイツ抒情詩人の問題意識を、それぞれの時代の社会状況、思想、哲学に照らして論じることができるよう、関連する歴史書、宗教書、哲学・思想書、文化理論書、図版などを幅広く読み込み、研究の最終段階におけるバランスのとれた客観的な記述への準備を行うことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
MarbachのSchiller-Nationalmuseumに所蔵されている手書き書簡は、一日に閲覧できる件数及び、複写申請できる枚数が極めて少なく制限されていることが、実際に現地に行ってみて判明した、そのため当初考えていたより、現物の確認と収集に時間がかかり、この純粋に物理的・技術的な理由において、多少の遅れが生じていると言わざるを得ない。ただし、この基礎的作業以外については、予定通り進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定通り、未公刊書簡の複写の収集という前年度からの作業を継続する。と同時に、徐々に軸足をドイツにおけるリルケ受容の開始と「ドイツの詩人」の言説形成の経緯の解明に移し、特に日本国内では手に入らない戦前・戦中の古書・雑誌を中心に収集し、その読解を行う。特に1930年代の文芸思潮を追究する。研究目的で挙げたDichtung und Volkstum『文学と国民性』は、ナチスが政権を取った翌年1934年に、雑誌Euphorionが編集者の意向で名称変更されたものである。この雑誌において、リルケの評価が本格的に開始され、同時にゲーテとの関連が指摘されたことは本研究で第一に注目する事実である。初年度のリルケの未公刊の書簡の収集と分析に並行して、Dichtung und Volkstum『文学と国民性』の文学観・ドイツ観について分析を行う必要がある。さらに、この分析に客観的性格を与えるために、同時代の雑誌Deutsche Vierteljahresschriftなどに掲載されている論文についても、リルケやゲーテ関係に限らず幅広く読み込み、この時代の文芸思潮の全体像を 的確に把握するように努める。以上の作業を中心課題として、研究成果に関連する理論的研究についても継続する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
現在までの達成度の欄で述べたように、現地文書館での未公刊書簡の複写の収集に予想以上に手間がかかることが判明したため、人件費・謝金に当初計上していた分を旅費に振り替えて、研究代表者本人の文書館での作業のための予算を十分確保できるようにする。したがって、旅費として、当初予定した800,000円に200,000円を加えた計1,000,000円を計上し、残りを書籍・雑誌を中心とした文献購入費とする。
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