2014 Fiscal Year Research-status Report
リルケとゲーテの連関に関する実証的・歴史的・哲学的研究
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24520369
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
黒子 康弘 日本女子大学, 文学部, 准教授 (50305398)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | リルケ / ゲーテ / ユード・C・メイソン / マルテの手記 / ベッティーネ / 情念 / 雰囲気 / 詩的経験 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、戦前から戦中にかけて一旦浮上し戦後のある時期から急に見えにくくなったリルケとゲーテの連関という研究史上の盲点を追究することを目的とする。前年からの継続で、ドイツ国立文学資料館(マールバッハ)にて、戦前の1930年代から40年代にかけて出版された書籍や雑誌論文を中心に探索・分析を行った。その中には、例えば Franz Koch, Paul Zech, Robert Faesi, Lothar Erdmann, Fritz Dehnらの日本では入手困難なものが含まれ、これらの分析によって、リルケを巡る戦時中の文学的・政治的言説の特徴を多面的に把握することができた。さらに今回は、日本の研究機関には所蔵が無い Eudo C. Masonの重要著作の複写を入手し分析に手を染めた。また、亡命ドイツ人らによって南米チリで世界に向けて発信されていた雑誌 Deutsche Blaetter fuer ein europaeisches Deutschland, gegen ein deutsches Europaによって、ドイツ国外の亡命作家の視点も導入することができた。これらによる成果を考慮に入れつつ、以下の2つの論点について分析と記述を行った。第一に、ゲーテとの内的な連関を示すとされている多くの論点の中から、特に核心部分であると考えられる『マルテの手記』執筆期の「ベッティーネ体験」に注目し、その再評価を行った。これにより、Eudo C. Masonの先駆的論文における「ベッティーネ体験」に関する見解に批判を加え独自の解釈を打ち出した論攷『若きリルケとゲーテ―愛と彷徨のゼマンティク―』を執筆した。第二に、「リルケとゲーテの連関」の検証可能な客観的事実の奥にさらに深く踏み込むため、「感情」「雰囲気」「情念」の形象化の問題の分析に取り掛かった。これらをめぐって2人の詩人が生きた別々の文学的経験を、それぞれの歴史的次元に開き、その連関を再評価するための、具体的な素材を収集・分析することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
Deutsches Literaturarchiv Marbachでの研究に夏期のまとまった時間を使うことができたことで、本研究に大きな進捗がもたらされている。しかし、当初想定していなかった文芸雑誌 Orplid, Philobiblon, Eckart, Die Horen等に掲載されているリルケ関連論文との出会いは、研究領野を押し広げ、論述の一層の複雑精緻化を要請していることも確かである。分析する資料数が予想以上に増え、未分析のものが蓄積されているということが、その理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、現在手元に積みあがっている資料の分析を早いうちに済ませ、これまで3年間にわたって分析・記述されてきたものと合わせ、一つの有機的な全体像へと纏めあげる。同時に今後に繋がる、有効かつ意義ある資料追求の方針を決定し、その方針に従った資料収集を行う。
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Causes of Carryover |
平成26年度に渡独した際に、当初予定していなかった文芸雑誌 Orplid, Philobiblon, Eckart, Die Horen等に掲載されているリルケ論文との出会いがあった。これにより、分析する資料数が大きく増えた。その他にも未分析の資料が蓄積されている状態に鑑み、平成26年度の後半に予定していた最後の渡独を次年度に繰り延べることが理にかなっていると判断したため、当該年度の旅費の未使用額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
現在手元に積みあがっている資料(リルケのHandschriften並びに、Franz Koch, Paul Zech, Robert Faesi, Lothar Erdmannらの研究論文)の分析を早いうちに済ませ、有効かつ意義のある資料追求の方針を決定し、その方針に従った最後の資料収集をマールバッハのドイツ国立文学資料館で行う。その旅費とすることを現在予定している。
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