2012 Fiscal Year Research-status Report
ブコヴィーナのドイツ・ユダヤ文学と初期パウル・ツェランの綜合研究
Project/Area Number |
24520370
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
関口 裕昭 明治大学, 情報コミュニケーション学部, 准教授 (50295581)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ブコヴィーナ / パウル・ツェラン / ユダヤ / 中心と周縁 / 集合的記憶 / 多言語性 |
Research Abstract |
ドイツのランボー社から刊行されているシリーズ「ブコヴィーナの文学」を全巻購入し(約60冊)、その中から手始めにマルグル・シュペルバー、アルフレート・ゴング、イマヌエル・ヴァイスグラスの詩集を精読している。同時にそれらに関する二次文献を読み、テーマを絞って論文を作成中である。 その成果として、昨年12月8日に明治大学で行われたシンポジウム「世界文学におけるオムニフォン」で、「多文化地域ブコヴィーナと初期・パウル・ツェラン」と際する口頭発表を行った。ここではツェランとその先輩でありブコヴィーナのドイツ文学を先導したシュペルバーを詩的形象(芥子)や韻律などの点から比較しつつ、両者の特性を明らかにした。この原稿は同シンポジウムの報告記録集で活字になっている。 さらに上述の研究の成果を踏まえ、昨年9月28日、メキシコ大使館で行われた「子供が子供だった時―多木浩二継承シンポジウム」において、ドイツの現代美術を代表するアンゼルム・キーファーへのツェランの影響を話した。これは大変な好評を収め、キーファー、ツェランのみならず、バッハマン、ムージルらにも言及しつつ、現在、月刊誌『みすず』で「アンゼルム・キーファーとパウル・ツェラン」という題のもとで連載中であり、現在まで4回分を書き終えた。 なお、ツェラン研究の一環として今秋に神奈川県立近代美術館(鎌倉別館)で、ツェランの妻ジゼル・ツェラン=レトランジュの版画を展示し、カタログを製作するす準備を進めているが、これも地道な研究活動の成果のひとつといってよいであろう。 本年1月16日、これまでのツェラン研究に対して(特に著書『パウル・ツェランとユダヤの傷 〈間テクスト性〉研究』慶應義塾大学出版会、2011年)、明治大学より「第19回 連合駿台会学術賞」を受賞した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上の4つの区分では(2)のおおむね順調に進展している」を選んだが、これに関して若干コメントを述べたい。確かに研究自体は非常に順調に進展しており、その意味では(1)を選んでもよいともいえるが、研究を進めていく過程で方向が大きく二つに枝分かれし、当初予定していた研究を堅調に進めている一方、新しい研究が目覚ましい進展を見せている。もっともこれも広い意味ではツェラン研究であり、ブコヴィーナ文学にも関連している。 それはドイツの現代美術家アンゼルム・キーファーとツェランの影響関係であり、その成果は「研究実績の概要」でも述べたように、月刊誌『みすず』の連載という極めて明瞭な形で進展している。今後はこの成果を一冊の本にまとめるべく、これまで以上に精力的に持続させていきたい。この研究ではキーファーとツェランだけでなく、すでに4回の連載でも書いたようにインゲボルク・バッハマン、ハイデガー、ムージルらを包含しつつ、今後はシュテフター、ヴァーグナーらにも言及しつつ、狭い意味でツェランとキーファーを論じるのではなく、ドイツとユダヤ、中心と周縁、言葉と造形芸術などの二項対立の要素を広い視野から論じてゆきたい。もちろん、この研究にもブコヴィーナ文学研究の成果を取り込む予定である。 その一方で、当初の目標であったブコヴィーナ文学全体の解明とその中で初期ツェランが試作を開始した背景についても研究を続ける予定である。こちらの面ではゴングとヴァイスグラスの試作の背景とその変容過程を解明したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究はツェランをあくまで中心に置きながら、「ブコヴィーナ文学と初期ツェラン」および「ツェランとキーファー」を二本の柱としつつ、研究を着実に進めてゆきたい。 今年は昨年に果たせなかったチェルノヴィッツでの実地調査を実現させ、その成果を生かして研究をさらに深めていく必要がある。もちろんその一方で、昨年度に入手しながらまだ読めていない文献の精読、二次文献の収集、研究者との交流と意見交換も進めていかねばならない。今年は2本の論文を執筆し、公表する予定である。一つはブコヴィーナ文学の先蹤者であるシュぺルヴァーの試作と雑誌編集者としての仕事の総括、もうひとつはツェランと同い年で独自の創作活動を展開したゴングとヴァイスグラスの研究である。 本研究の最終年の2014年にはブコヴィーナ文学のシンポジウムを行いたいので、その準備も少しずつ始めているところである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年の夏、ブコヴィーナの中心地チェルノヴィッツに実地調査に行く予定であったが、校務が多忙を極め、果たせなかった。今年はまず何よりもこの研修を実現させたい。具体的には研究者用のツアー(9日間)が8月初旬にあるので、これに参加する予定である。この前後に、ベルリン、ヴィーンなど乃図書館、博物館などで資料収集および研究者との打ち合わせを行うので、航空機による往復の交通費、ツアー参加費、列車による交通費、宿泊費・食費合わせて65万円くらいはこの研究に支出する。 これ以外には、文献の購入、複写、国内の様々な大学図書館(たとえばブコヴィーナ文学の資料を豊富に所蔵する東北大学図書館など)での資料収集、イタリア語で書かれたツェランに関する論文の翻訳委託料などに費やす予定である。
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