2013 Fiscal Year Research-status Report
ブコヴィーナのドイツ・ユダヤ文学と初期パウル・ツェランの綜合研究
Project/Area Number |
24520370
|
Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
関口 裕昭 明治大学, 情報コミュニケーション学部, 教授 (50295581)
|
Keywords | ブコヴィーナ / パウル・ツェラン / ユダヤ / 中心と周縁 / 集合的記憶 / 多言語性 / アンゼルム・キーファー |
Research Abstract |
2013年3月より6月まで4回にわたり『月刊 みすず』に「アンゼルム・キーファーとパウル・ツェラン」を4回にわたって連載した。画家キーファーに与えた「死のフーガ」を中心としたツェランの影響を多くの絵画を分析しながら述べた。 8月7日~15日は、チェルノヴィッツへの研究旅行に参加し、ツェランの生まれ故郷を現地の研究者の説明を聞きながらフィールドワークを実施した。ホロコーストの生き残りから戦時中の話を聞いたり、シナゴーグやユダヤ人墓地を訪問したり、大きな収穫があった。 9月14日~12月1日は「西洋版画の流れ 特別展示:ジゼル・ツェラン=レトランジュ」と題する展覧会を神奈川近代美術館・鎌倉別館で行った。版画家ジゼルはツェランの妻であり、夫である詩人と共同で詩画集などを刊行した。これはジゼルの日本では初めての展覧会である。私はジゼルの版画作品を貸与し、カタログの解説執筆とツェランの詩の翻訳を担当した。またこの展覧会をめぐってドイツ文化センターで水沢館長と対談を行った。 10月26日の明治大学ドイツ文学会で「ブコヴィーナのドイツ・ユダヤ文学」と題する口頭発表を行った(約1時間)。夏にブコヴィーナを訪問した体験も交えながら、ブコヴィーナのユダヤ系ドイツ語作家たちの生涯と作品を引用しつつ紹介し、当地におけるユダヤ・ドイツ文学の歴史的特質を明らかにした。11月10日、ドイツの作曲家アリベルト・ライマンのシンポジウムに参加し、彼が作曲したツェランの詩についてドイツ文化センターで解説を行った。 2014年3月31日発行の学会誌『オーストリア文学』第33号に論文「ブコヴィーナにおける詩的風土の形成――マルグル=シュペルバー、アウスレンダー、ツェラン」を発表した。ツェランおよびブコヴィーナの文学に関しては上記のような研究成果を上げることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度はツェランとブコヴィーナ文学に関してきわめて多面的かつ、豊かな研究成果を上げることができた。「研究概要」でも述べたように、ツェランの妻ジゼル・ツェラン=レトランジェの日本で初めての展覧会を開催し、夫婦の共同作業を紹介することができた。ジゼルの画業を知ることが、ツェランの詩を理解するために不可欠であることもこれで実証されたと思う。本展覧会に際して、カタログを刊行し、その解説を担当するのみならず、館長との対談をドイツ文化センターで行い、また短い紹介記事(『現代詩手帖』)や論文(『オーストリア文学』)を発表することができた。また作曲家アリベルト・ライマンがオペラ「リア」公演のために来日した折には、そのシンポジウムに参加を求められ、彼が作曲したツェランの詩についての解説を行った。 これらと同時進行的に、キーファーとツェランの関係を考察する仕事も続けており、連載は4回で終わったものの、それ以降およそ8回分の原稿を仕上げており、今年の秋に一冊の本として刊行する予定である。 一方、ツェラン以外のブコヴィーナ文学の研究も進んでいる。10月26日に行った全明治大学ドイツ文学会での口頭発表「ブコヴィーナのドイツ・ユダヤ文学」では、マルグル=シュペルバー、アウルレンダー、ローゼンクランツ、キットナー、ブルームなど、これまで研究対象に取り上げることのなかった作家たちの生涯と作品の特色を丁寧に解説し、最後にブコヴィーナのドイツ語文学全体にみられる特性をまとめた。これからこの成果を活字にしなければならないが、かなり長大な論文になりそうなので、2回ぐらいに分けて、明治大学紀要に今年度中に発表したいと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年の秋にみすず書房より『翼ある夜――パウル・ツェランとアンゼルム・キーファー』を刊行する予定である。分量は400字詰めの原稿にして約600枚程度である。現在はその原稿の完成に全力をあげている。この本ではツェランとキーファー以外にも、ハイネ、ヴァーグナー、シュティフター、ロバート・フラッド、フレーブニコフ、ポール・オースターらについても、両者を倍加する存在として論じられる。もちろん同書では、ブコヴィーナの文学の特徴についても部分的ではあれ触れる予定である。 6月15日の日本比較文学会の全国大会(成城大学)では、同書の一部となる口頭発表「砂、石、書物――ツェラン、ジャベス、オースターに見るユダヤ詩的想像力の系譜」を行う予定である。 研究書の刊行後は、「現在までの達成度」でも述べた、ブコヴィーナ文学全体を解明した長大な論文の作成に集中するつもりである。これを2回に2015年1月くらいに明治大学紀要に発表したいと考えている。さらに次年度には間に合わないかもしれないが、2016年春あたりに、「ブコヴィーナのドイツ文学」と題する翻訳詩のアンソロジーと解説からなる大著を刊行したいと考えている。 上記の研究を予定通りに遂行するためには、ドイツ語と英語のほかに、ロシア語、イタリア語、フランスの語の文献を読み、またその一部を日本語に翻訳する必要が生じる。そのためそれらの分野の専門研究者の協力を得ながら進めている。 また校務との関係で調整中であるが、夏休みにはヨーロッパを訪問し、ヴィーンで資料収集にあたり、ドイツやスイスのツェラン研究者たちと研究交流を図りたいと考えている。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ツェラン研究を遂行していく中で、画家アンゼルム・キーファーや作曲家アリベルト・ライマンなど周辺の事項をも研究する必要性が生じ、予定通りには研究費を使い切ることが困難な状況になった。また今年の秋にツェラン研究書を一冊上梓することになり、そちらの執筆に集中せざるを得なくなった。ただしこれは研究が停滞したということではけっしてなく、より豊かな可能性をはらみながら発展していったということができよう。 本年度は夏に再度ヨーロッパへ渡り、専門家との意見交換、資料収集などのために使用する予定である。さらに、研究計画でも書いたように、ツェラン研究は国際的な広がりを見せており、ロシア語、イタリア語、フランス語の文献を読む必要があり、これらの分野の研究者の援助が必要になるので、専門的知識の貸与という名目でも研究費の一部を使う予定である。
|