2012 Fiscal Year Research-status Report
フロベールおよび同時代作家における白昼夢の形象とその歴史的文脈
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24520375
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
橋本 知子 立命館大学, 経営学部, 非常勤講師 (60625466)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 国際情報交換 / フランス・パリ / フランス国立図書館 / 国立科学研究センター |
Research Abstract |
ギュスターヴ・フロベール(1821-1880)をはじめとする19世紀フランス文学において、白昼夢およびその変形としての諸現象(幻覚、錯覚、幻影、幻想など)といった、無意識の表出というテーマが、どのように描かれているかを分析する。また当時の医学が文学に与えた影響を考慮に入れることで、フロイト前夜の文学と医学の関係性について、文学作品が医学言説をどのように受容したかを見るために、19世紀の資料を参照しつつ文献学的に検討する。 当該年度に実施した研究の成果としては、まず、対象とする文学作品の限定とその精読が挙げられる。19世紀は実証主義科学の時代であり、科学の実績を考慮に入れた文学作品は枚挙にいとまがない。本研究の第一年目にあたる当該年度において、こうした膨大な文学作品の中から分析の対象となるコーパスを決定する必要があり、それを精読することが課題であった。申請者の専門であるフランス写実主義時代の作品についてはすでに精読・分析は済んでいるため、当該年度はその次の時代にあたる自然主義時代の作品(具体的にはゾラ、モーパッサン、ゴンクール兄弟)の精読に励み、また先行研究論文を収集・精読した。 次に、こうした文学作品に影響を与えたとされる19世紀医学にかかわる文献およびその研究論文(具体的には1880年代細菌学についての研究論文)を、フランス国立図書館にて閲覧・精読した。細菌学は、コッホ、パストゥールを始め、19世紀後半に大いに発展した分野であり、その歴史については医学史の分野での研究は進んでいるが、文学に与えた影響については未だ研究されていないのが実状である。細菌という不可視の闖入者は、フランス文学において、見えざる恐怖として描かれている。文学と細菌学との関係について、文学研究の立場から新たな視点を導入し、ひいてはフランス文学研究全体へ貢献することを目標としている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度において、交付申請書に記載した通りの研究計画、つまり、対象となる文学作品を正確に見定めることについて、おおむね順調に進展していると思われる。研究計画に従い、白昼夢とその変形としての諸現象が描かれている文学作品について、フランス文学作品のデータベースを用いてキーワード検索を行い、分析対象とする文学作品を決定した(約100作品にのぼる)。その中から、白昼夢およびその変形としての諸現象が物語上重要な役割を担っていると思われる作品から順番に精読を行った。また、同時代の医学の影響については、当該年度次年度以降に分析する予定であったが、細菌学という分野に絞って、当該年度からすでに先行研究精読を行うことで、計画よりも早めに研究を行った。 研究は「おおむね」順調に進展しているが、しかし問題点も挙げられる。白昼夢およびその変形としての諸現象が描かれる作品の同定は、もっぱらデータベースのキーワード検索に依存しているが、「白昼夢」という語を用いずに白昼夢を描いている文学作品も多く存在すると予想されることから、キーワード検索の限界を視野に入れる必要がある。よって、次年度以降はこうしたキーワードの用いられていない文学作品も研究の対象となる可能性に配慮して研究を進める所存である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も分析対象となる文学作品の精読を続ける予定である。深いテキスト分析のためには、作品を一読するだけでは不十分であり、一度読んだ作品についても、その後時間をおいて、何度も読み返す所存であり、先行研究では指摘されていなかった点を発見し、独自の解釈をほどこすことを目的とする。 また、次年度からは、同時代医学の影響を見るために、19世紀の文献調査を本格化する予定である。この方面の文献調査はすでに開始しているが、細菌学のみならず、精神病理学や生理学といった他分野の文献について、調査を進めてゆく。 そのためには、フランス国立図書館での資料収集が不可欠となる。オンライン上で多くの蔵書が閲覧可能となっているが、それでもなお、貴重本を始めとして、多くの文献は、実際にフランス国立図書館で閲覧するしかない。よって、夏休みを利用した海外渡航によって、集中的な文献調査を試みる予定である。 また、文学と医学の関係という、重要かつ重大な研究テーマについては、他の研究者との情報交換が不可欠である。日本およびフランスの多くの研究者と交流を深め、申請者の研究についてご教示をいただくために、機会ある限り多くの学会や研究会に参加する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
夏休みを利用した海外渡航を行い、国外出張費として研究費を使用することで、フランス国立図書館にて集中的な文献調査を行う。 また、書籍費として研究費を使用することで、フランスにて近年発行された研究書の購入し、先行研究を網羅的に把握する予定である。 さらに国内出張費として使用することで、国内各地で行われている学会および研究会にできるだけ参加し、情報交換を行う予定である。
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Research Products
(4 results)