2014 Fiscal Year Annual Research Report
トポスとしてのアビシニア――近代日欧におけるアフリカ認識の変転
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24520382
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
藤田 緑 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (10219024)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 研一 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (80170744)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | アビシニア / トポス / 近代英国外交 / 戦争 |
Outline of Annual Research Achievements |
夏季休暇を利用して、大英図書館にて19世紀アビシニア戦争に関連する文献調査を短期間実施した。その際、アビシニア戦争から30年経った世紀末に南アフリカで展開されたボーア戦争にも着目し、ほぼ同時期に同大陸で勃発した両戦争が、英国に与えた影響を比較検討した。アビシニア戦争の場合は、エチオピア側によって不当に捕縛された英国公使・宣教師・民間人の解放のために英国が派遣した特使までも拘束したため、最後の手段として討伐隊が送り込まれた。報道陣も同行したこの戦争は、「未開」の地の「狂った」「野蛮な」皇帝から無垢な「善意の」ヨーロッパ人を救出するという英雄的行為として英国でもドイツでも歓迎された。いわば、非文明対文明というわかりやすい構図となっている。 しかしながら、ボーア戦争では、世界に冠たる大英帝国を相手に、小国「ボーア人国家」が「正義」のために無謀な戦いを仕掛けたという「大義」に、世界はボーアに快哉を叫ぶ。数か月の短期決戦で決着がつくはずであった戦争に、英国は最終的に2年7か月という長い年月と莫大な戦費を強いられた。統治という側面からは英国の勝利に終わったものの、英国は財政的に疲弊し、「光栄ある孤立」から日英同盟の締結という外交上の大転換を迎えるに至る。ボーア戦争は、最後の「紳士の戦争」と言われ、「白人」対「白人」の戦争であったことからも、英国人に一種のロマンティシズムを掻き立てた側面は否めない。しかし、長期化に伴い厭世気分と、ボーア人の無教養で「黒人に近い」民族イメージが定着する。白人でありながら蒙昧な民のイメージは、ボーア人国家が存するのがアフリカ大陸である、という事実によって増幅される。全く異なる種類の戦争である──かたや白人奪還戦争、かたや資源と土地をめぐる帝国主義戦争──にもかかわらず、アフリカという場が、皇帝を、ボーア人をことさら「野蛮」に貶める装置として働くのである。
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Research Products
(3 results)