2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24520385
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
林 佳世子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (30208615)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 碑文 / オスマン帝国 / トルコ |
Research Abstract |
1.「オスマン詩」に関する基礎的研究 「オスマン詩」を史料として活用するための基礎を築くため、平成24年度には、オスマン朝時代の「詩人」と「詩」に関する基礎的情報の整理をすすめた。まず、詩人についてはアーシュクチェレビーの「詩人伝」の研究を行い、バーキーらの項目を訳出し、公刊した。これらに基づき、「オスマン詩人データベース」を設計し、データ入力を開始した。「詩」そのものについては、押韻、韻律などの形式、素材、歴史的発展について整理し、『オスマン朝期古典詩入門』の出版準備をすすめた。予定していた公刊にはいたらなかったものの訳出は進んでおり、その作業を通じ、多くの新しい知見がえられた。この研究の推進のため、平成24年12月17日に研究集会を開催した。宮下遼氏(東京大学)「17世紀のアナトリアの詩人Ismail Beligの『ハマームの書』」とセリム・クル氏(ワシントン大学)「The Literature of Rum: The Making of a Literary Tradition (1450-1600)」の発表をえ、オスマン文学の生成と発展に関する貴重な意見交換を行った。 2.「碑文詩―オスマン社会における詩の利用」研究 詩の活用形態としての「碑文詩」に関しては、平成24年8月25日~9月18日、および12月21日~31日の間、トルコ・イスタンブルにおいて調査を行った。かねてより共同研究をすすめているイスタンブル・シェヒル大ハティージェ・アイヌル教授らと「Ottoman Inscription Project」を推進し、在イスタンブルの碑文詩についてのデータベースの構築をすすめた。その一環として、碑文詩の所在を地図上に示すシステムの開発を行った。なお、碑文の点数の多いイスタンブルでの調査が終了せず、当初予定してブルガリアでの調査は見送った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の第1の目的である「オスマン詩に関する基礎的研究」ではアーシュクチェレビーの「詩人伝」のうちバーキーの項目をとりあげ、研究を行った。また、同じく詩人バーキーの代表作の訳出やヴァルヴァル・アリー・パシャの『自伝詩』の訳出を行い、公刊した。これを通じ、オスマン詩のヴァリエーションについて新知見をえることができた。また、これらの知見を活かし、現在「オスマン詩人データベース」を構築しつつある。同データベースにあたっては、世界的に著名なオスマン文学研究者セリム・クル氏の助言をえた。また同氏を招いて研究会を開催し、多くの参加者をえて、活発な意見交換を行うことができた。この他、オスマン詩の押韻、韻律などの形式、素材、歴史的発展について整理する『オスマン朝期古典詩入門』は、その出版にはいたらなかったものの準備はすすんでおり、おおむね順調に進展しているといえる。 本研究の第2の目的である「碑文詩研究」では、2回のイスタンブルの調査で主にウシュクダル地区を中心に多数の碑文詩のデータを収集することができた。在イスタンブルの碑文の数の多さから、その後に予定したブルガリアでの調査は見送ったのは正しい判断であったと考える。碑文詩をもつ碑文の所在地をGoogle Map 上に示し、また検索や絞込みを可能とするシステムの開発に着手し、完成させた。このように、オスマン朝期の「碑文詩研究」は、順調に進展している。 以上の理由により、初年度にあたる平成24年度の研究活動を通じ、本研究は「(2)概ね順調に進展している」と判断する。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究では、次の2方向から研究を実施する。 1.「オスマン詩」に関する基礎的研究 日本において、オスマン・トルコ語で記された「オスマン詩」の研究は、まったく蓄積をもたない。このため、本研究の開始にあたっては、まず「オスマン朝時代の詩人と詩」に関する基礎的情報を整理し、研究の基盤を整える必要がある。「詩人」については、まず「オスマン詩人データベース」の作成する。これには従来の文学研究の成果を利用するが、あわせて各種「詩人伝」の原典研究を行い、新知見を加える。「詩」については、オスマン詩の規則の整理をおこなう。ペルシャ語詩にならって作成されたオスマン語詩は、韻律、押韻と内容に関する複雑な約束事に規定され、結果としてきわめて難解な作品群になっている。その読解を助けるため、詩を規定する諸規則とテーマを整理・解説した『オスマン朝期古典詩入門』をまとめ公刊する。以上により「オスマン詩」研究の基礎を固める。 2.「碑文詩―オスマン社会における詩の利用」研究 上記をふまえ、「碑文詩」の内容分析を行う。碑文詩は、オスマン朝の詩人の多くが、スルタン一族や軍人、政治家など有力者の家に出仕し、彼らのために詩を書く過程で作成されたものである。これは、文学作品である詩が、一種の「商品」として、社会の中で活用されていたことを示すものである。本研究では、各詩人ごとに編まれた「詩集(ディーワーン)」に含まれる献上詩や実際の建物の入り口に掲げられた碑文から「碑文詩」のテキストを抽出し、「碑文詩」テキストのデータベースを作成する。3年間の期間中には、イスタンブルとオスマン朝下にあったバルカン、アナトリア諸都市の建造物の「碑文詩」を対象に、約800件のデータを蓄積する。そして「碑文詩」の内容分析を行い、オスマン朝時代における詩人の社会的役割を具体的に解明していく。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1.「オスマン詩」に関する基礎的研究 第一には、オスマン詩の押韻、韻律などの形式、素材、歴史的発展について整理する『オスマン朝期古典詩入門』の刊行にむけての作業をすすめる。代表的な詩の選定と訳出をすすめ、研究書の内容を充実させる。また、昨年度に引き続き「オスマン詩人データベース」の作業を継続する。25年度にはイスタンブルとアナトリア出身の詩人についての情報を整理し、データベースの拡充する。 2.「碑文詩―オスマン社会における詩の利用」研究 前年度に収集した碑文詩テキストの解読を進め、順次「碑文詩データベース」に蓄積する。申請者がすでに撮影を済ませている碑文写真からの情報の追加を続ける。平成25年5月には共同研究の推進に関しイスタンブルで打合せのための研究集会を行うほか、平成25年度8~9月に、昨年度に予定していたブルガリア、またはギリシャにおいて、オスマン碑文の現存状況に関する調査を実施する。この調査により入手したデータも随時、碑文詩データベースに蓄積する。
|
Research Products
(2 results)