2013 Fiscal Year Research-status Report
日本伝存文献を用いた『全唐文』補訂の可能性についての研究
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24520392
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
道坂 昭廣 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (20209795)
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Keywords | 中国古典文学 / 写本 / 王勃 / 初唐文学 / 駢文 |
Research Abstract |
昨年度に引き続き、日本に伝存する初唐の文学者王勃の作品集について集中して調査を行った。当該年は、特にその抄本の発見から影印公開・翻字の状況について調査した。その結果、正倉院蔵「王勃詩序」は、博物局と印刷局がそれぞれ所蔵調査を行い、それぞれ明治10年代に影印していたことを確認した。また、楊守敬・羅振玉の翻字作業は、楊守敬が博物局、羅振玉が印刷局の影印を利用したことを再確認した。但し羅振玉が利用した石版覆印本は、明治17年に覆印されたが、実際には大正7年に再印刷されたされたものであったことを明らかにした。このことは、従来指摘のなかったことである。また印刷局の影印年について誤解があったが、本調査によってそれを訂正し、かつ上記のような事実を報告し得た(「日・中における「正倉院蔵王勃詩序」の”発見”について」と題して原稿提出済み)。なおこの調査の過程において、印刷局・博物局が明治から大正において日本伝存古写本の影印を活発に行っていたことが明らかになった。本科研の発展的課題として、調査を行う予定である。 当該年度は、「王勃集卷29・30」について調査を行い、その作品から、王勃の生涯について新たな知見を得、2件の報告を行った(第二届饒宗頤與華學曁香港大學饒宗頤學術館成立十周年慶典國際學術研討會(2013年12月9-10香港大学)及び「中国中古の学術と文献」(2014年2月1日京都大学人文科学))。当該年の調査により、日本古写本の発見、影印と翻字について、楊守敬と内藤湖南・羅振玉の果たした役割の大きさが再確認された。彼らの交友と周辺知識人の役割について調査した。また古写本の保存において興福寺の果たした役割の大きさも明らかになり、その資料を収集した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の最大の成果は、明治時期に、日本伝存写本の影印が博物局・印刷局、特に後者で積極的に行われていたという事実を発見したことである。更に内藤湖南と羅振玉の学術的交流において、それらが利用されていたことを確認しえたことも成果として報告できる。印刷局を始めとする明治期の学術貢献と、日中の研究者の学術交流の調査は、本科研の進展の過程で発見・実感したものであり、重要な課題と考える。日本伝存写本について、所蔵など基本情報は国内外で共有されつつある。しかし、そのテキストとしての重要性については、いまだ充分ではない。当該年度、王勃の佚文では注目されることの少なかった卷30について幾つかの知見を発表・報告したことは、本研究の目的達成の一つと数えることができる。しかし、継続中の王勃佚文の注釈等は、テキストとしての重要性を発信するうえで重要な作業であるにもかかわらず、完成が遅れている。この点は計画通りに進んでおらず、反省すべき点である。当該年度は、中国人研究者との意見交換を行う機会を何度か得た。そのなかで、敦煌文書など他の写本との文字の比較、表現の類似性などの新たに必要な作業が見つかったこと、また楊守敬や羅振玉の蔵書など、新たな調査の課題が明確になった。これらについては、既に遼寧省図書館など調査を行ったが、充分ではない。 以上のように、当初計画していた課題について、必要な作業を実施しているが、完結していない。また新たな課題も幾つか発見され、それらの進展状況を考え上記のような評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
本科研の最終年度にあたる。本科研の目的は、日本伝存写本がもつ重要性を国内外に伝えることである。そのために大きく二つの方法を計画した。一は、校勘・翻字を正確におこない、あわせて伝来等、写本そのものの情報をより詳細に伝えること。二は、注釈等を行い、個々の作品内容から写本がもつ意義を明らかにすること、である。この二つについては、今年度の完成をめざし、特に後者については、現在定期的に検討会を開催している。本年度は検討会の開催日を増やし、注釈の完成を目指す。 次に、日本伝存写本は、その保存と発見に関して、例えば日本古典文学ほど充分な情報がない。テキストの重要性を示すものとして、それらの情報を付加する必要性があると思われるので、その調査を実施する。またそれら写本の存在について、江戸時代の記録は紹介されている一方で、明治の調査や影印は充分に評価されていない。内藤湖南や羅振玉、更には彼らより少し前の楊守敬でさえ、明治の影印を利用していることが、本科研による調査の過程で明らかになった。これらは本科研の総括及び発展的課題と位置付け、日本伝存写本の研究に貢献した明治期から戦前の学術出版活動についても調査を行う。この課題については、各地の図書館等のデータベースを積極的に利用する。しかし、書き込み等重要な情報は実際に調査に赴くことなくしては発見できない。中国・台湾の図書館とも連絡を取っており、蔵書調査を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
所蔵調査については、特に国外のについて、予定していた図書館等所蔵機関への調査が幾つか実施できなかった。例えば中国・遼寧省図書館の所蔵本について継続的な調査を計画していたが、当該図書館が書庫整理を行うとのことで、一度しか調査できなかった。写本の校勘及びテキストの入力については、予定通り進展したが、注釈等の作成入力作業は、注釈自体が計画より遅れと形式の統一に混乱が生じたため作業が遅延した。 中国の遼寧省図書館とは継続的に連絡をとっており、今年度は調査可能との報告を得た。昨年度実施できなかった調査を行う予定である。その他、中国・台湾の、幾つかの機関からも許可を得ている。また、注釈のための検討会も継続して実施できるようになってきたため、最終稿として入力の予定である。そのために必要な図書・検索ソフト、また成果の蓄積を参加者で共有するための情報機器の購入を計画している。
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Research Products
(7 results)