2014 Fiscal Year Research-status Report
現代中東文学における「ワタン(祖国)」表象とその分析
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24520393
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
岡 真理 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (30315965)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
林 佳世子 東京外国語大学, その他部局等, 教授 (30208615)
藤元 優子 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 教授 (40152590)
勝田 茂 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 教授 (90252733)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 中東 / 文学 / 祖国 / 表象 |
Outline of Annual Research Achievements |
プロジェクト3年目の本年度は、中東世界の種々の現代文学作品における「ワタン」表象を考察・分析するという従来の作業をさらに拡充、対象を「中東」以外の地域で書かれる中東文学、および「文学」以外の周辺ジャンルにまで広げ、多様な角度から「ワタン」表象を考察した。 まず、本年度も研究会を年2回開催(6月、1月)、第1回研究会では、クルド人のディアスポラ・コミュニティにおける哀歌に関する報告がなされ、狭義の「文学」(=文字テクスト)にとどまらない「ワタン」表象を考察した。第2回研究会では、「越境」をテーマに、国民国家の枠や表現ジャンルの枠を超えて作品を生産する作家たちをとりあげ、その「ワタン」表象について議論した。 また本年度も、研究成果の社会還元の一環として公開講演会「中東×アメリカ 中東文化の中のアメリカ」を開催(6月、早稲田)、現代中東世界に生きる人々にとっての「ワタン」を、「アメリカ」という補助線を引くことによって新たな角度から考察した。文学のみならずヒップホップなどサブカルチャーにおける表象についても論じ、より多角的な視野で「ワタン」表象を考察した。 プロジェクト最終年度(3年目)に中東の作家を招聘し、「ワタン」をテーマとするシンポジウムを開催するという当初の計画どおり、本年度は、エジプトから新進気鋭の女性作家モナ・プリンス、レバノン内戦を逃れてカナダに移住し英語で著作するレバノン人作家ラーウィ・ハージ、イギリス在住でアラビア語で著述するイラク出身のアッシリア人作家サミュエル・シモンの3名を招き「アラブ文学との対話」と題するシンポジウムを開催した(10月、大阪大学)。中東文学の多様性を紹介すると同時に、3人が披瀝した三者三様の「ワタン」観は、現代中東世界の輻輳する近現代史を反映しており、多くの示唆に富むものだった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度も当初の計画どおり、国内の中東現代文学研究者十数名が参加する2日間の研究会を年2回開催した。こうして3年間にわたり計6回、開催された研究会で、多数の研究協力者らの協力を得て、延べ17本もの研究発表が行われた。発表は、中東文学の中核をなすイラン文学、トルコ文学、アラブ文学をはじめ、クルド文学、ボスニア文学、マグレブのフランス語文学、イスラエルのアラブ系ユダヤ人作家、あるいはパレスチナ人作家のヘブライ語文学、アメリカのアラブ系作家の英語文学など、当初の予想以上に広範な地理的範囲をカバーし、狭義の「中東文学」を超えて、多様な言語・地域・分野の研究者と研究のネットワークを作ることができた。 また計画どおり本年度も一般公開シンポジウムを開催、多数の参加者を得た。1年に1回の講演会だが、中東現代文学をテーマに多様な観点から3年間で計3回の講演会を継続的に開催できたことは、プロジェクト・メンバーが地域や言語を超えて中東現代文学とワタンに関する知見と理解を深める上でも、研究成果の社会還元という意味でも大きな意義があった。のみならず本年度は、3名もの中東出身の現代作家をゲストスピーカーに招いて公開シンポジウムも開催することもできた(シンポジウムの記録は冊子に収録、刊行された)。 国家、言語、地域を超えて広く中東の現代文学を検討できたことで、中東現代文学においては「ワタン」がいずれの言語・地域の文学においても、近現代史の長きにわたり、不可分のテーマとなっていること、また、「ワタン」表象の分析においては、現在では、「文学」という「ハイカルチャー」だけでなく、「サブカルチャー」でも多種多様に表現されており、「ワタン」なるものを考えるにはサブカルチャーを含むアート全般を視野に入れる必要性があるという、今後に向けての課題も見つかるなど、当初に想定した以上の研究成果を上げることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
3年間の計画でスタートした本プロジェクトは、当初の計画以上に研究の進展があり、残る課題は、この研究成果を論集にして刊行することである。 一方、3年にわたる本プロジェクトにおける共同研究の結果、現代中東世界における心性を「ワタン(祖国)」との連関で人文学的に考察するには、狭義の「文学」作品にとどまらず、サブカルチャーを含む文化表象全般を対象にする必要性があることが分かり、これに鑑み、本プロジェクトを継承しさらに発展的に研究するために、次年度より4年間の予定で科学研究費を得て「現代中東世界における「ワタン(祖国)」的心性をめぐる表象文化の発展的研究」というテーマに取り組むことになった。 幸い、新プロジェクトが予算を得ることができたので、本プロジェクトの成果としての論集刊行は、新プロジェクト(現代中東の文化表象におけるワタン研究)の中間的総括として位置づけ、その刊行準備に取り組み、早ければ2年後に刊行することとし、次年度は、2新プロジェクトに取り組みつつ、2012年度に刊行した『現代中東文学選2012』に続き、『同2015』の刊行準備を進める予定である。
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Causes of Carryover |
プロジェクト最終年度ということで、10月に海外在住のイラク人作家をゲストスピーカーとして招聘しシンポジウムおよび講演会の開催を計画していたが、渡航中に、航空機のトラブルによって来日が急きょとりやめとなり、一連の企画が中止となった。年度内に再度、招聘したかったが、結局、日程の再調整ができず、来日が叶わず、その分の予算が消化できなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初は、繰り越した予算で、次年度に本研究プロジェクトを総括するシンポジウムの開催の経費に充てる計画であった。しかし、新年度より、本プロジェクトをさらに発展的に展開する新たな研究プロジェクトが基盤研究として採択されたため、旧プロジェクトの総括シンポジウムは、新プロジェクトの中間的な総括という位置づけで、新プロジェクトの予算で開催することとし、次年度に繰り越された予算は、旧プロジェクトの成果を論集として刊行するための諸準備(編集作業、編集会議のための旅費等)に充てる予定である。
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Research Products
(27 results)