2012 Fiscal Year Research-status Report
琉球「通事書」写本群の本文校訂及び加点注釈の総合的研究
Project/Area Number |
24520394
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
木津 祐子 京都大学, 文学研究科, 教授 (90242990)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 琉球 / 官話 / 通事 / 写本 / 白話小説 |
Research Abstract |
琉球の官話(中国語)通事が18世紀前後に編纂した一連の官話教本について、綿密なテキストクリティークと、書き入れや本文の言語的特徴を元に、現存するテキストの系統分類を行った。主たる成果は下の二点である。 (1)梁允治編『広応官話』について、現存する二種類のテキストである天理図書館蔵本と法政大学沖縄文化研究所蔵本とを比較し、そのテキストに反映される言語的特徴が『白姓』『人中画』に見える諸特徴と多くの共通点を有することを明らかにした。その事実に基づき、琉球や中国の歴史資料(公文書や家譜など)を調査し、編者の梁允治が『白姓』を成立させた鄭氏一門に連なる経歴を有する人物であることを突き止め、乾隆年間の琉球通事の学統の中で、鄭氏一門が占めた比重の大きさを端的に指摘することに成功した。この成果は、論文「『廣應官話』と乾隆年間の琉球通事」として公表した。 (2)京都大学文学研究科所蔵琉球写本『人中画』四巻付『白姓』の本文及び注を、すべてデータ入力した。本文中については、その来歴を指示内容を分析し、本文の異体字・俗体字についても綿密に時代性や写本という媒体の特質を考証し、翻刻と影印の対照データを作成した。この成果は、平成25年度に公刊予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、17~19世紀に琉球で成立した各種官話テキストを基礎資料とするが、それらはすべて写本で伝世しているため、本文のテキストクリティークが極めて重要な研究の比重を占める。24年度の研究において、伝世写本の中で、随一の精度と伝承と確かさを有する京都大学蔵本『人中画』四巻付『白姓』の本文及び注文を綿密に調査し、その対照電子データを製作し得たことは、今後の研究にとって大きな基盤となるものである。 また、『広応官話』の二種類のテキストを比較検討することにより、その言語的特徴が『人中画』『白姓』と密接な関わりを示し得たことは、教本の言語的特徴と通事の学統(学門)が不可分の関係を有する大きな証左となるもので、通事の官話教本最盛期であった乾隆年間の琉球学術の全容に迫る上でも、やはり強固な礎とすることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、京都大学蔵抄本『人中画』の本文及び注文の分析を行う。中国に現存する刊本『人中画』との比較検討も実施する。同時に、『廣應官話』『学官話』のテキストについてさらに詳細な分析を行い、『白姓』『学官話』『官話問答便語』間の継承関係について検討を加える。併せて、表記字体についても、『人中画』整理の経験を生かして、相互に比較が可能なようにそれぞれの特徴を整理して分析する。 全てのデータは、本文と注文との対照が容易なように、電子テキストに入力し整理を加える。これらのデータは将来公開可能な様に『人中画』と同じデータ形式とする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
中国大連図書館及び北京中華書局に所蔵される、『人中画』中国刊本のテキストを調査、京都大学蔵本との比較検討を行う。このために、中国渡航旅費が必要である。この資料撮影のために、デジタルカメラを購入する。また、24年度に実施した研究成果の一部(京都大学蔵抄本『人中画』の影印翻刻対照資料)を25年度に公刊するにあたり、その成果の印刷及び郵送料として相応の研究費を使用する。 テキスト整理とデータ入力については学生の補助を受ける予定で、謝金は主にその入力アルバイト費用に当てる。
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