2013 Fiscal Year Research-status Report
中国知識人の挫折と信念ーー蕭乾文学と思想の軌跡をめぐって
Project/Area Number |
24520404
|
Research Institution | Hirosaki Gakuin University |
Principal Investigator |
顧 偉良 弘前学院大学, 文学部, 教授 (50234654)
|
Keywords | 蕭乾の自伝資料 / 丸山昇、蕭乾、文潔若往復書簡 / 大江健三郎研究 / 国際情報交換 |
Research Abstract |
昨年度は、蕭乾自伝資料を翻訳して公表した。この自伝資料は、二〇一二年十月に開かれた蕭乾に関する国際学術シンポジウムの際に来日した蕭乾夫人文潔若氏が持参してくれた。一九五〇年に書かれた蕭乾自伝資料は、実は自己批判文であり、毛沢東時代の思想改造の一環として書かせられたものである。当時、数十万人もの中国知識人は、自己批判文が書かせられたのである。自伝風に書かせられたこの自己批判文は、どこまでが本音であるか疑問が残るが、蕭乾は彼なりの知恵でどうにか切り抜けるかと頭を絞って考えたようにも見受けられる。所々に巧妙な言葉を使って当局の目を盗もうとする。そのあたりの事情は行間から読み取れる。この資料は蕭乾を知る上で第一級の資料であり、中国現代文学、そして現代中国政治を語る上で重要な意義がある。 昨年は、筆者により蕭乾自伝資料を翻訳し、「訳者解説」を添えて公表した。中国現代文学の研究が直面している最大の問題の一つは、多くの文献が解禁されていないことである。その意味でこの自伝資料は、中国文学研究に貴重な資料として提供できると思う。 そして、懸案の「丸山昇、蕭乾、文潔若往復書簡」については、二〇一四年八月、上海人民出版社より刊行される予定。私もその整理に加わった。私の執筆した「悼念丸山昇先生夫人――丸山松女史」、及び中国語訳「『地図を持たない旅人・解説』」(丸山昇著、顧偉良訳)の二篇は、『丸山昇、蕭乾、文潔若往復書簡』に収録予定。この往復書簡は、二〇一五年刊行予定の『蕭乾全集』にも収録される予定。全集刊行後、中国文学研究者、慶応大学教授長堀祐造氏と共に「丸山昇、蕭乾、文潔若往復書簡」を日本語訳する予定。 尚、昨年度は大江健三郎に関する論文「〈谷間の村〉における地獄の一季節――『飼育』を読む――」(『弘学大語文』第40号、弘前学院大学国語国文学会編、左9頁-左20頁)を発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の予定としては、「丸山昇、蕭乾、文潔若往復書簡」の翻訳に取り組もうとしたが、この往復書簡は、2014年八月、上海人民出版社より刊行されることが決まったので、その刊行を待ってから日本語訳をしたほうが適切だと判断した。その代りに、二〇一二年十月に本学で開かれた蕭乾国際学術シンポジウムの際に来日した蕭乾夫人文潔若が持参してくれた蕭乾自伝資料の日本語訳に取り組んだわけである。 蕭乾自伝資料の入手は、想定外のものであり、意外の収穫であった。ところで、翻訳作業は思ったより難航し、時間がかかった。紆余曲折を経て漸く日本語訳を実現した。現時点では完全版ではないが、蕭乾に関する第一級の資料による日本での公表は、意義が大きい。蕭乾研究課題の成果でもある。尚、この自伝資料に関しては、2015年蕭乾全集刊行後、完全版の形で日本語訳を出したいと考えている。 いずれ完全版の形で日本語訳による「丸山昇、蕭乾、文潔若往復書簡」、及び「蕭乾自伝資料」の公表は、日本の学者と中国作家との交流、及び蕭乾研究における意義が大きいものと信じている。 昨年は蕭乾自伝資料に関する翻訳作業のため、中国国内の調査研究ができなかったが、今年八月下旬、中国広州で開かれる中国日本文学研究会全国大会にて大江健三郎について研究発表を行った後、北京中央文史館で蕭乾に関する調査研究を行う予定。また蕭乾関係者を訪問、インタビューをする予定。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は、研究課題「中国知識人の挫折と信念――蕭乾の思想及び軌跡をめぐって」の中で、〈一〉土地改革の参加、〈二〉思想改造の実態、〈三〉身分社会、〈四〉建国後の文学事象(1.文芸政策、2.「文芸講話」の志向性、3.ソビエト文芸理論、〈五〉新哲学――「新唯物論」をめぐって。〈六〉蕭乾を振り返って、といった六項目に亘って検証する。 建国後の文学事象をめぐっては、言語指向性の角度から、三十年代のソ連の文芸理論、及び中国の代表的なマルクス主義者の打ち出した「新哲学」をめぐって、毛沢東の「文芸講話」との関連性について考察する。毛沢東時代における文学的事象は、ソビエト時代の文学現象を彷彿とさせるものが多かった。厳しい文芸政策のもとで、中国の作家は、激闘たる時代に於いて真実なる人生を以て文学に身を投じ、後世のために貴重な記録を残してくれた。それは中国現代文学における最大の特徴である。 建国後の文学的事象は、文芸政策、創作内容、作家の対場にまで実に多岐的問題に亘っている。これらの問題については、これまでの先行研究において多角度的に見てきたが、管見によれば、厳密な意味での「言語指向」によるアプローチという視点が欠落しているようである。今年度の研究においては、ロシア・フォルマリズムの理論を援用して「言語指向」の視点で毛沢東時代の文芸政策、及び建国後の文学的事象について検証する。 尚、今年七月末、蕭乾研究に関する海外調査のため、蕭乾が留学したケンブリッジ大学クイーンズ・カレッジへ行く予定。八月下旬、中国広州で中国日本文学研究会全国大会が開かれるが、私は「〈谷間〉の重力――『万延元年のフットボール』を読む」と題する大江健三郎についての学術発表行う予定。その後、北京で蕭乾夫人文潔若氏とのインタビュー及び中央文史館での調査を行う予定。
|