2012 Fiscal Year Research-status Report
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24520411
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
西 成彦 立命館大学, 先端総合学術研究科, 教授 (40172621)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 植民地文学 / 移民文学 / 亡命文学 / バイリンガリズム |
Research Abstract |
「外地」の日本語文学を、ヨーロッパ列強の植民地文学と比較するという当初の目標は、順調に達成されつつある。植民地拡大期(および海外移民送出期)の日本語文学は、アイヌ語や台湾諸語、「朝鮮語」、あるいは移民送出先の主要言語など、さまざまな異言語を作品中にちりばめ、地域ごとの多言語状況を描き出すことで「ローカル色」を出し、内地日本の文学から距離を取る傾向にあった。この点に関しては、平成25年度にいくつかの研究成果を公表する予定である。こうした積み重ねの上で、目標のひとつに掲げた「外地概念の再定義」が可能になる。 次にもうひとつの目的である「脱植民地化以降の文学」の比較研究については、1)「引揚者の文学」と、2)「旧植民地出身者の日本語文学(=在日文学)」に分ける。 1)については、平成24年度の日本比較文学会第74回全国大会において、シンポジウムを組み、とくに日韓の共同研究の可能性を追求しつつある。また、そこではインドシナ・北アフリカからの「引揚者」を生み出した戦後フランス文学との比較にも着手した。とくに同じ研究テーマをかかえる韓国・世宗大学校の朴裕河氏との研究協力は、大きな成果を産むと期待できる。 2)については、日本の敗戦後、冷戦状況に置かれた東アジアで「在日文学」に「亡命文学」的な側面が付け加わり、「日本語文学」が単なる「日本文学」の枠には収まらず、「日本語で書かれた東アジア文学」と呼ぶしかない状況も生まれていることを考慮し、アメリカ大陸の英語文学やスペイン語文学との比較という新しい研究方法の必要性を痛感した。ペルーの作家、マリオ・バルガス=リョサの作品を「多言語状況を踏まえた国民文学」の一例として読むという論文を書くなかで確認できたことは数多い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
比較文学という学問を「一国文学」相互の比較ではなく、さまざまな言語や文化をまたぐ文学相互の比較という新しい方法論を試すものとして再設定することが、本研究の最終的な目標であるが、かつての植民地主義の反映を戦前・戦後の日本語文学のなかに見出すという初期の目標は順調に進んでおり、とくに植民地の「多言語状況」や、バイリンガル話者の日本語使用と「小説の一言語使用」のあいだの関連については、本研究の終了時までに単著刊行の見通しまで立った。 韓国の研究者との連携に比べて、台湾の研究者との連携は少し立ち遅れているが、手は打っている。 また「引揚者の文学」の比較については、ドイツ語圏との比較は今後の課題として残るが、フランス語圏との比較は、研究連携も含めて、順調である。「旧植民地出身者の文学」についても、「在日朝鮮人文学」を一種の「亡命文学=難民文学」としてとらえることで、多くの亡命者や戦争難民・政治難民によって支えられている北米文学との比較という新しい視点を見出せたことは有意義だった。将来的に、アメリカ大陸の文学を「世界文学」に位置づけるのに、「日本語で書かれた東アジア文学」の研究が基礎研究として役立つと確信している。
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Strategy for Future Research Activity |
現在順調に進んでいる「日本語文学と異言語」(異言語としては、アイヌ語、台湾諸語、「朝鮮語」、および北米の英語を考えている)に関する研究は、本研究の終了時までには単行本の刊行を視野に入れて、順次、執筆を積み重ねる。 また、この作業と並行して進める予定でいた西洋諸列強の植民地文学に関しては、将来的には、西洋諸語で書かれるアフリカ文学をも視野に入れつつ、アメリカ大陸の文学を「植民地文学」という範疇に加え、そこでの「異言語」(先住民言語や新移民の母語)との関係を調査するという新しい方向性を拡大させていきたい。 その他、少し出遅れた台湾の研究者との連携、ドイツ文学者との連携も、今後の課題として、徐々に実質化していきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
在日文学関係の基本文献の収集をさらに徹底化するとともに、欧米語圏の植民地文学・ポストコロニアル文学関係書籍の購入を進める。 研究連携の構築に関しては、韓国や台湾のポストコロニアル文学研究者との意見交換の場を頻繁に設け、最適な旅費の執行をおこない、場合によっては、本研究終了後に論集を編むことなども考える。 また、今後の「比較植民地文学研究」の展開を見越して、南部アフリカ(南アフリカおよびモザンビーク)での資料収集を計画中である。現地文学におけるヨーロッパ系市民とアフリカ系市民の「文学」への寄与のあり方を比較することは、「比較植民地文学研究」を進めるうえで、きわめて重要だと考えるためである。 その他、古くから収集してきた中・東欧文学の資料整理にアルバイト謝金を用い、本比較植民地文学研究に「中・東欧文学」をどのように組みこめるのか、再度、検討したい。中・東欧は、東西の大国に挟まれ、いわゆる植民地支配を受けた過去と同時に、さまざまな少数民族を抱えた多民族混住地域としての歴史が長い。この歴史を踏まえた文学作品の研究を「比較植民地文学研究」の対象に加えたいからである。
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Research Products
(5 results)