2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24520417
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
長野 明子 東北大学, 情報科学研究科, 准教授 (90407883)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
島田 雅晴 筑波大学, 人文社会科学研究科(系), 准教授 (30254890)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 国際情報交換 ヨーロッパ諸国 / 国際情報交換 韓国 |
Research Abstract |
今年度は、語彙素基盤の形態理論を、形態素基盤の形態理論と対比させて、両者の概念的・経験的違いを明らかにするという作業を行った。具体的には以下の通りである。 1.形態理論の概念的把握 語彙素基盤の形態理論と形態素基盤の形態理論のそれぞれについて先行研究を精査し、両者の違いを明確化した。それぞれの理論において鍵となる概念を整理した。 2.2つの形態理論の経験的根拠の精査 語彙素基盤の理論と形態素基盤の理論のそれぞれが、さまざまな形態的現象およびさまざまな言語タイプ(屈折型言語、膠着型言語、孤立型言語などの類型論的タイプ)に対していかなる予測をするかを検討した。 3.等位複合語の分析 語彙素基盤の形態理論を用いて、日本語・中国語をはじめとするアジア諸語と、英語・オランダ語・フランス語をはじめとするヨーロッパ諸語のそれぞれにおける等位複合語の分析を行った。アジア諸語では、意味に依存しないタイプの等位複合語が非常に生産的であることを経験的に示し、形態素という単位に還元できない複合語があることを示した。 4.日英語の接頭辞の分析 二つの形態理論を比較する形で日英語の接頭辞類を包括的に分析した。その結果、日本語の「接頭辞」の大部分および英語の接頭辞4タイプのうち2タイプについては、接辞(機能的形態素)ではなく語彙素として分析するべきであることが明らかになった。 5.文字論と形態理論の関係 語彙素基盤と形態素基盤という形態理論の大きな対立は、書記法、特に日本語の漢字の使用法から検討を加えることができることがわかった。音読みと訓読みという2つの読みを持つという日本語の漢字の特異性は、語彙素基盤の形態理論の枠組みで捉えることができることを発見した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、語彙素単位の形態理論(Lexeme-Based Morphology;以下LBMと略記)の枠組みを用いて、英語と日本語を中心に派生形態論(複合を含む)を詳細に記述・分析し、LBMにおける派生形態論研究の通言語的妥当性を検証するともに、普遍文法の観点から人間言語にありうる語形成プロセス・派生接辞の型や種類を解明することである。 (1)この目標を達成する第一歩として、今年度は語彙素基盤の形態理論とはいかなる理論なのかを詳細に検討し、分析の鍵となる概念や道具立てを明確化することができた。 (2)派生形態論のうち、(i) 日英語の接頭辞付加、(ii) アジア諸語とヨーロッパ諸語における等位複合語のそれぞれについて、実際に(1)の理論を利用して分析を行い、語彙素単位の理論がどのような点で形態素単位の理論より優れているかを明らかにした。 (3)文字論については、本研究の計画段階では射程に入れていなかったが、(1)の研究を進めていく中で、非常に有意義な研究対象であることが判明した。文字・書記法というものも人間言語を構成する重要な一要素であることを考えれば、この進展も、本研究の目標達成にとって大きなステップになったといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究成果と本研究全体の目標をかんがみ、今後は以下のような方策・観点で研究を推進していく予定である。 (1)分析対象とする形態現象を大幅に増加させる。派生については接頭辞だけでなく接尾辞や接中辞、複合については等位複合語だけではなく、従属型複合語(subordinate compound)や修飾型複合語(modificational compound)についても分析を試みる。 (2)形態論と統語論の関係について考察を進める。語彙素基盤の形態理論を、形態素基盤であり、かつ形態論を統語論の一部として分析する理論(Distributed Morphologyなど)と概念的・経験的に比較する。この比較においては、「意味をもたない形態素」や「音形を持たない形態素」という要素の存在に特に注目する。 (3)対象言語を拡充する。 英語以外のヨーロッパ諸語(独・蘭・仏・西・伊・露語等)、日本語以外のアジアの言語(中・朝・越南語等)、さらにそれら以外の言語(ハンガリー語、フィンランド語、アフリカ諸語等)についても、派生形態論(複合を含む)に関する情報を、記述文法書、先行研究、辞書、コーパス等を用いてできる限り収集し、上記の問題点を検証する。 (4)質量ともに充実したデータを収集できるよう工夫する。(i) 資料不足による問題が多いと予測されるので、「入手可能な資料から明確に言えること」と「さらなる資料がなければわからないこと」を区分・整理し、確実にわかる範囲で言語間比較・形態素単位の形態論の仮説の通言語的妥当性の検証を行う。その際は、日英語に関する調査結果も考慮に入れる。(ii) 必要に応じて、対象とする言語の専門家に、データ収集・分析に関して研究支援を依頼する。(iii) 積極的に海外の学会で発表し、さまざまな言語を母語とする言語学者と交流することで、書物や論文では得られない情報を収集する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1)物品費として40万程度使用。ここでは、データ収集および学会発表用のノート型パソコンを購入するとともに、言語学関係の文献・辞書類を購入する。 (2)旅費として40万程度使用。研究代表者および研究分担者それぞれ海外の学会へ参加する予定である。 (3)謝金として10万程度使用。研究代表者・研究分担者それぞれについて論文の英文校閲サービスを積極的に利用する。 (4)その他、通信費やインターネットコーパス使用料として10万程度使用する。インターネットコーパスは1年契約で1アカウント2万6千円程度必要である。
|