2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24520417
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
長野 明子 東北大学, 情報科学研究科, 准教授 (90407883)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
島田 雅晴 筑波大学, 人文社会科学研究科(系), 准教授 (30254890)
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Keywords | 言語学形態論 / 類型論 / 前置詞 / 修飾 / 連結形 / 漢字 / 語彙 |
Research Abstract |
今年度は前年度の研究結果を基に語彙素基盤の形態理論を、より多様な言語やより多様な現象に適用してその有用性や問題点を探求するという方針での研究を行った。主たる研究事項とその結果は以下の通りである。1. 前置詞類の研究:1・2年目の研究での接頭辞の研究を入口として、前置詞類に関する語彙素基盤形態理論からの分析を行った。前置詞には文法的なものと語彙的なものがあるが、前者については接頭辞への通時的文法化のプロセスを、後者については接頭辞との共時的交替関係を、それぞれ理論的に仮説化し、データを用いて実証した。2. 修飾関係の研究:2年目では等位複合語に焦点を当てたが、本年度は語や句の中での修飾関係にも分析対象を広げた。具体的には、直接修飾に生じる形容詞類の形態的特性を分析し、これが関係節や修飾型複合語とどのように違うのかを明確化した。この研究の成果である論文、Nagano, Akiko (2013) "Morphology of direct modification." (English Linguistics, Vol. 30, No. 1, pp. 111-150)は、日本英語学会より、2013年度EL研究奨励賞という評価を受けた。3. 類型論的分類と連結形の研究:資料の手に入る限りの言語について、まず、その形態論がword-basedであるか、stem-basedであるかを検証する作業を行った。それを基に、連結形が世界の言語でどのような分布と特性を示すかの網羅的調査を行った。結果を多数の学会や研究会で発表し、各言語の専門家の意見や必要なデータを収集した。4. 日本語漢字の研究:語彙素基盤形態理論の分析ツールは漢字の諸特性を捉える上で、非常に有用であることを発見した。結果をまとめた論文はイギリス言語学会の学会誌Journal of Linguisticsに採択が決定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の実績報告書で計画した以下4点の今年度の課題は、全て、研究結果発表というところまで進めることができた。 1. 分析対象とする形態現象を大幅に増加させた。複合については等位複合語だけではなく、従属型複合語や修飾型複合語についても分析を試みた。 2. 形態論と統語論の関係について考察を進めた。語彙素基盤の形態理論を、形態素基盤であり、かつ形態論を統語論の一部として分析する理論と概念的・経験的に比較した。この比較においては、「意味をもたない形態素」や「音形を持たない形態素」という要素の存在に特に注目した。 3. 対象言語を拡充した。 英語以外のヨーロッパ諸語(独・蘭・仏・西・伊・露語等)、日本語以外のアジアの言語(中・朝・越南語等)、さらにそれら以外の言語(ハンガリー語、フィンランド語、アフリカ諸語等)についても、派生形態論(複合を含む)に関する情報を、記述文法書、先行研究、辞書、コーパス等を用いてできる限り収集し、上記の問題点を検証した。 4. 質量ともに充実したデータを収集できるよう工夫した。特に海外の学会で積極的に研究発表を行い、様々な言語の専門家から意見をもらえるよう努力した。
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Strategy for Future Research Activity |
1・2年目の研究結果をうけ、3年目となる今年度は以下のような方策で語彙素基盤形態論の検証を行っていく予定である。1. 語彙素基盤形態論の視点からみた言語の類型論について、経験的・理論的により精密な検証を行う。研究分担者である島田雅晴を実施主体とする。2. 2年目の研究で、連結形(linking elements)と呼ばれる形態素は、語彙素基盤であれ形態素基盤であれ、形態理論にとっては重要な意味合いを持つことが判明した。これを受け、連結形に関する体系的な研究を行う。実施主体は、研究分担者の島田雅晴とする。3. 品詞論に関する研究に着手する。語彙素にとって非常に重要な情報の一つが品詞である。今年度からの新たな挑戦として、語彙素基盤形態論と品詞論の関係について考察を進めていきたい。研究代表者である長野明子を実施主体とする。4. 日本語漢字に関する研究を継続する。従来の文字研究は、日本語母語話者に向けて、日本語で(そして国語学のロジックで)書かれたものがほとんどであったが、日本語学習者や日本語に興味のある外国人に、日本語の文字、特に漢字の不思議について理解してもらうためには、何よりもまず、彼らの言語や文字と比較しつつ、彼らに理解可能なことばで説明することが肝要である。理論言語学のツールで日本語漢字の特徴をどの程度(そしてどのように)説明できるか、検証を続ける。研究代表者である長野明子を実施主体とする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度は海外での研究発表が4回入るとともに海外での調査に力をいれることにしたため、国内で謝金を介する研究業務をする機会がなかった。また、予定以上に次年度繰越金が増えたことについては、計画していた言語資料(文献や辞書その他)の入手に時間を要し、今年度内に購入することができなかったということが大きな理由である。 昨年度からの繰越金を有効に使うため、国内での文献収集にも力を入れるとともに、国内の関連研究会や学会に出かけて効率よく資料収集を進めたい。また、海外での研究発表にも続けて力を入れ、現地でしか(もしくは母語話者からしか)入手できないデータをできる限り集めるために使用する。特に、謝金を用いて、各種言語のネイティブスピーカーにインフォーマントとして研究協力を依頼する。共同研究を遂行するため、研究代表者と分担者がそれぞれ所属する東北大学と筑波大学の研究室の設備を充実化させるとともに、定期的にいずれかの大学に集まって共同作業を行う。
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