2013 Fiscal Year Research-status Report
語形成による事象叙述から属性叙述へのタイプシフト:語彙意味論からのアプローチ
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24520427
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
由本 陽子 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 教授 (90183988)
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Keywords | 出来事名詞 / モノ名詞 / 叙述名詞 / 特質構造 / 生成語彙論 / 語彙意味論 |
Research Abstract |
今年度の第一の成果は、日本語の「名詞+動詞連用形」型の複合語が本来表すはずのデキゴトではなく、具体的なモノを表す純粋な名詞として用いられる場合について、その意味カテゴリーによっていくつかのタイプに分類し、それぞれについての意味解釈メカニズムを生成語彙論の枠組みで形式的に記述したことである。この型の複合語は、まず、名詞が動詞の内項である「花売り」「金持ち」「大学出」のようなものと、名詞が付加詞として解釈される「(野菜の)油炒め」「(アユの)炭火焼き」のようなものとの2種類に大別され、前者は統語的に名詞であるが、後者は複雑述語を形成し得る述語的性質をもつという点で大きく異なっている。この区別と形成メカニズムについては前年度詳しく扱った。今年度はこれらがさらにモノ名詞としての解釈を得られる際、どのような条件のもとどのようなメカニズムが働くかを明らかにした。これは、本研究課題の事象叙述から属性叙述へのシフトと深くかかわる問題であり、本研究の方向性をより明確にするケーススタディとなった。この成果は日本言語学会第147回大会の公開シンポジウム「日本語研究とその可能性―音韻・レキシコン/語彙・文法を中心に」(2013年11月24日神戸市外国語大学)において、 公表した(タイトルは「名詞+動詞」型複合語の統語範疇と意味カテゴリー」)。 もうひとつの成果は、伊藤たかね氏(東京大学)、杉岡洋子氏(慶應大学)と共同で行った「ひと+名詞」についてのモノ名詞から叙述名詞へのタイプシフトについての研究である。具体的には「ひと刷毛塗る」のような表現で道具を表す名詞から行為の解釈が生じることに注目し、その意味強制のメカニズムを生成語彙論によって分析した。その成果は形態論レキシコンフォーラム(2013,9月7-8日慶應大学)において発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度の研究は、動詞からの派生語・複合語が具体物を表すモノ名詞として解釈される場合について焦点をあててしまったため、本課題が中心的に扱うべき事象叙述表現から属性叙述表現へのタイプシフトについては、十分な考察が進んでいない。 たとえば、出来事を表す「名詞+動詞」型複合語のうち「田中さんは金持ちだ→この街には金持ちが多い」「太郎は大学出だ→大学出の社員が多い」のように主語の属性・性質を表す意味から具体的なヒトを表す意味へとシフトしているものについて扱ったが、どのような条件のもとにその意味拡張が可能なのかという問題については記述レヴェルの域を脱することができなかった。 また、モノ解釈が可能な同じ型の複合語で、動詞の項が「の」格の修飾語として共起することを要求するタイプ(「鯛の粕漬け」「アユの炭火焼き」など)についても、モノ解釈の基盤となっているのは「(鯛を)粕漬けにする」のような「に」を伴う叙述名詞としての用法であることを指摘したが、これらについてもどのような条件によって属性叙述表現が可能となるのかを明らかにすることができなかった。 このような意味拡張を形式的にとらえることは非常に難しいと思われるが、今後は国内外の意味論研究者からの知見も得て、そのメカニズムを明確に説明する方策を探求していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のように、「内項+動詞」の組み合わせで主語にあたる人物や物体を表すことができる複合語は、本来出来事名詞であるはずのものが、ある条件のもとでは主語の属性を表しうるため、そのようなタイプシフトが可能となっていると考えられる。そこで、そもそも主語の属性を表すにはどのような条件を満たさねばならないのかという問題について、明確に説明する方策を探求していきたい。 同様に上記の「の」格によって動詞の項が義務的に共起するタイプに対して、その他の「付加詞+動詞」型の複合語で、「手焼き*(のせんべい)」「朝どり*(のイチゴ)」のように「の」を介して名詞の属性描写をするがモノ名詞として用いらることができないものについても考察を深め両者の差異を明らかにしていく。最終的には動詞連用形を主要部とする様々な複合語について、属性描写表現としての用法が可能になる条件を統一的に説明できる分析を追求していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度未使用分は、今年度中に海外で開催される学会において成果発表をする際の旅費として支出する計画をしていたが、私的な理由により海外出張が困難になってしまい、しばらくは国内で開催される学会のみでの活動に限定されている。 ・国内外から研究者を招いて事象構造と属性叙述に関するコロキアムを開催することを検討しており、その計画が整えば招待者の旅費として支出する。 ・平成25年度の学会において口頭発表した成果については、複数の論文集の企画がすでに進んでおり、それらにおいて刊行される予定である。その際、執筆に関わる費用(執筆料・編集のための諸費用)が必要になる可能性があるのでそのために使用する。 ・小野尚之氏(東北大学)との共編で10数名の執筆者を招いての論文集の刊行が決定しているが、内容充実のため各執筆者との情報交換会を1,2回行うことを計画しており、その際の旅費、会議費に支出する。
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Research Products
(6 results)