2015 Fiscal Year Research-status Report
語形成による事象叙述から属性叙述へのタイプシフト:語彙意味論からのアプローチ
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24520427
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
由本 陽子 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 教授 (90183988)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 属性叙述 / クオリア構造 / 意味解釈における強制 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度は主に動詞連用形を主要部とする複合語について、その多様な意味カテゴリーがどのように予測できるかについて考察し、特に出来事や行為を表すものと具体物を表すものとの関連性に注目し、それらがすべて全く別個の意味解釈メカニズムによって導かれるのではなく、多くの場合は文脈や文法的、形態的環境によって動機づけられる「強制(coercion)」によるコト解釈からモノ解釈へのタイプシフトによっていると考えられることを明らかにした。強制を可能にする条件としては、結合する名詞や形容詞のクオリア構造において動詞が表す出来事や行為の下位事象をより特定する情報があることが挙げられ、そのような情報と動詞の意味との合成を形式化するには、生成語彙意味論の枠組みでいくつかの複雑な解釈メカニズムを想定する必要があることを明らかにした。その研究成果は、益岡隆志氏編『日本語研究とその可能性』と『言語文化プロジェクト2014』にそれぞれ単著論文として公表した。また、かねてより伊藤たかね氏(東京大学)、杉岡洋子氏(慶応義塾大学)との共同研究により考察していた「ひと+動詞連用形」と「ひと+モノ名詞」についての研究でも、生起する統語的環境や共起する形態素などによって、本来出来事を表す動詞が主要部であるにもかかわらず前者がモノ表現の一部となる(例:「ひとつまみの砂糖」)ことがあり、いっぽう、本来具体物を表す名詞が主要部であるにもかかわらず後者が行為を表す(例:「最後のひと刷毛が表情を変える」)場合があることを指摘し、それらが強制による意味解釈メカニズムによって可能になっていることを主張した。この研究の成果は私が編集し刊行した論文集『語彙意味論の新たな可能性を探って』に二者との共著論文として公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2015年度前半は、小野尚之氏との共同で編集した論文集『語彙意味論の新たな可能性を探って』(開拓社)の刊行にあたりその編集作業に忙しく、また、その論文集に掲載した、伊藤たかね氏、杉岡洋子氏との共同研究による「ひと+動詞連用形」および「ひと+具体名詞」の意味と用法についての研究において、特にその二つがそれぞれコト解釈とモノ解釈をもち得る条件を明らかにすることについて共同研究者間の意見調整や協力作業が必要であったため、これらにかなりの時間と労力を費やした。また、『英語学・言語学用語辞典』(開拓社)の「形態論・レキシコン」分野の編集も担当していたので、これにもかなりの時間を費やしてしまった。本課題の研究についても、動詞連用形を主要部とする複合名詞で属性描写に用いられるタイプがどのような条件で形成されるかを明らかにすることを目指していたが、同じ型の複合名詞でも具体物を表すもの(例「金持ち」は人も表す)、行為や事象を表すもの(例「文句言い」「酒飲み」などは形としては行為を表し得る)もあり、非常に多様性に富むため、まずその全体像を明確にすることが重要だと考え、そこから始めたが、全体像をとらえることに終始してしまい、残念ながら本来の目的まで達成することができなかった。大学の運営に関わる仕事も多くなり、そのことも研究に専念する時間を減じる原因となった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度中に本課題で最終目的としていた事象叙述から属性叙述へのタイプシフトに関わる一般制約を明らかにすべく、これまでの研究で得た知見をもとに、特に以下の点について3年間の研究を総括するような形にまとめ、その成果を論文として発表することを目指す。 (1)動詞を主要部とした複合語のなかで、本来事象を表すものがどういう条件によって属性叙述あるいは属性を描写する表現に変化するのかについて、特に、Selkirkらが提唱した第一投射の条件のもとに形成されていると思われるタイプ(例:「金持ち」「酒飲み」)と、日本語特有のその条件に反する組み合わせによるタイプ(例:「石造り」「瓶詰め」)とに共通に一般化できる原理があるのかどうかを明らかにする。 (2)属性叙述表現として用いられる動詞連用形を主要部とする複合語が、結合する要素と叙述対象とする要素として何を選ぶかにより、その意味が異なることについて、体系的な記述をする。特に、場面レヴェルの叙述と個体レヴェルの叙述という対比で捉えられる一般化があるのかどうかを明らかにする。
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Causes of Carryover |
前述の通り2015年度は共同研究や編集の仕事で手一杯になってしまい、単独で行うべき研究を学会等で成果を発表するところまで達成できなかったため、成果発表のために予定していた費用が未使用のままである。また、コンピュータを買い替える必要があるが、機種選定が首尾よく進まず、購入することができなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度中に最終成果として目指していた動詞がもとになっている派生語や複合語、および複雑述語がどのような統語的条件のもとで属性描写表現として機能するのか、また、複合語の場合においては、どのような要素と結合した場合に属性描写表現として容認されやすいのかについて明らかに論文にまとめるために、専門家の意見を聴く、あるいは、広く情報収集をするために学会に参加するなど国内出張を数回予定している。また、新しいソフトに対応できるようコンピュータを買い替える。
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Research Products
(5 results)