Outline of Annual Research Achievements |
本研究者は, 日本語全般において, 語彙素に語幹が二つある場合, 動詞の語幹を補語として取る形態(非過去辞, 過去辞, 否定辞, 態辞) が, どの語幹を選択するかを説明する科学的な文法の構築を構想している。本研究は, この一部で, 九州西北部の方言の過去辞と態辞に関する同現象を説明する文法の構築を目的とした。同方言では, 過去辞/ta/に選択される語幹は, 母音/i/終末語幹の対応動詞(上1段動詞)では非過去辞/(r)u/でも選択されるのに, 標準語の「母音/e/終末語幹」の対応動詞(下2段動詞)では,{*tabe/ tab#u}#ru/ のように非過去辞では選択されず, 終末母音/e/のない語幹が選択される(Koga & Ono 2010)。 計画通り、過去辞と否定辞による語幹選択の理論研究、否定形の実証音声データの収録まで研究は進んだ(Koga 2012a, Koga 2012b, Koga 2013c, d)。これらの研究の途中で、口頭発表において、Koga and Ono 2010 の仮定「下2段動詞の非過去形の語尾の /uru/ を非過去辞 /u/ と非過去辞 /ru/ とする」を採用しなければならないのか、議論が Journal of Linguistics や HPSG の国際会議であった。 本研究者は、Koga & Ono 2010 で未完だった同仮定を支持する納得できる現象の分析が喫緊の課題であると分かった。決定的な現象は「佐賀西部方言の下2段動詞を一方とし、上1段動詞と4段動詞を他方とし、前者が非過去形の語尾の「る」が撥音で長音ではなく、後者が撥音もいいが長音が好まれる」であり、この分析を目指し、これより一段階、簡単な現象を持つ佐賀武雄方言の現象の分析に専念し、研究 Koga 2013a, b, Koga 2014b, Koga 2015a, b, c, d を行った。分析は、音韻論の比重が大きい形態音韻論の研究で、拍理論と最適性理論が必須となった。
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