2013 Fiscal Year Research-status Report
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24520433
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
熊本 千明 佐賀大学, 文化教育学部, 教授 (10153355)
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Keywords | 焦点 / 情報構造 / 提示文 / 倒置構文 / 分裂文 / 変項名詞句 / 指定文 / 同定文 |
Research Abstract |
本年度は、焦点化構文の一つである指定文の意味特徴を、措定文、同一性文との比較において、詳細に検討した。指定文の本質をとらえるには、西山(2003) の「変項名詞句」の概念が不可欠であるが、この概念を理解せず、指示性に関する考察が不十分な議論においては、コピュラの前後に現れる名詞句の特徴づけに問題が生じる。 指定文を措定文と関係づけるMikkelsen(2005)は、倒置指定文の主語名詞句を叙述名詞句と考えるが、それでは、なぜ、措定文の中に倒置が可能なものとそうでないものがあるのかを説明しなければならない。同様に指定文と措定文を統一的に説明しようとするPatten (2012)は、コピュラの後の名詞句の定性の違いに注目するが、この二つの文タイプの区別について、定性だけでは正しい予測をすることができない。他方、指定文を同一性文の一種とみなすHeycock and Kroch(1999)は、指定文のコピュラの前後の名詞句は同種のものであるとするが、いわゆる「真の同一性文」と異なり、指定文においては、二つの名詞句の間に非対称性がある理由を明確に示していない。いずれの場合も、最終的にはDiscourse-new、 Discourse-old、 topic-focusといった情報構造上の概念を導入して説明を試みるものの、肝心の名詞句の特性についての考察が不十分である。 本研究では、それ自体に変項を含む非指示的名詞句という概念を取り入れなければ、指定文の意味構造は解明できないこと、「焦点」と「値」は異なる概念であり、異なる文タイプの意味構造を把握する上で、注意深く区別する必要があることを示した。 加えて、昨年度国際学会において行った発表をもとに、分裂文におけるit/that の用法を掘り下げて考察し、また、昨年に引き続き、whoever 節に現れる代名詞it/heの意味機能について検討した。これにより、名詞句の指示性に関するより綿密な議論の必要性を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は国際学会での発表を行うことはできなかったが、昨年の発表をもとに、it分裂文とthat 分裂文の類似点、相違点を検討し、名詞句の指示性とそれを照応する代名詞の用法について、新たな知見を得ることができた。また、当初予定していたように、「際立ち」「強調」「前景」「新情報」などの概念の整理の一環として、指定文と措定文、同一性文の詳細な比較・検討を行い、それぞれの文タイプの意味構造の本質に対する理解が不十分であるために生じる様々な問題を整理することができた。残念ながら、今年度の目標の一つに挙げていた、提示機能と指定機能の本質的な相違を解明するには至らなかったが、焦点化構文のいくつかの個別的な特徴について考察を深めることができ、一定の成果を上げたので、達成度は十分であったと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
26年度は、これまでの研究の総括を行い、さらに次の作業を行う。(1) 英語の指定文と措定文の違いを詳細に検討する。特に、倒置指定文を措定文の倒置形であるとする議論の問題点を明らかにするために、NP ばかりでなく、VP、PP、APの倒置も広く考察の対象とし、提示機能と指定機能の区別により、「際立ち」の概念の精密化を図る。(2) 英語の倒置指定文、倒置構文を日本語のガ分裂文、ハ分裂文と比較対照し、それぞれの構文の本質を探る。ガ分裂文の提示機能について、慶應義塾大学名誉教授西山佑司氏、慶應義塾大学教授小屋逸樹氏と討論するため、研究会を開催する。(3) information-packagingの枠組み、認知言語学の枠組みも比較の対象とし、informaiton status、Ground-before-Figure といった概念の妥当性を検討する。(4) 西山の「変項名詞句」とBirner and Ward の'open proposition' の相違点を明らかにし、それぞれの概念の説明力を検証する。(5) 不定名詞句と定名詞句の文中における意味機能を指示性の観点から明らかにするため、非制限用法における関係代名詞which/whoの選択について考察を行う。(6) 研究の成果を日本言語学会、日本語用論学会、国際学会などで発表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初、研究成果を発表するため、海外への出張を予定していたが、テーマが正確に適合しない学会での発表はあまり実益が上がらないと判断し、出張を行わなかった。そのため、旅費として予定していた金額が残り、次年度使用として持ち越された。 (1) 焦点化構文に関連する分野の文献をそろえるため、言語学関係の図書を購入。200千円 (2) 研究の遂行に必要な消耗品を購入。20千円 (3) 研究成果を発表するため、国内へ出張。70千円 (4) 研究者を招聘し、研究会を開催。150千円 (4) 研究成果を発表するため、海外へ出張。480千円 (6) インフォーマントへの謝礼。28千円 合計 948千円
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