2016 Fiscal Year Research-status Report
状態性述語の総合的研究:日本語形容詞類と繋辞の形態・統語・意味
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24520435
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Research Institution | The University of Kitakyushu |
Principal Investigator |
漆原 朗子 北九州市立大学, 基盤教育センター, 教授 (00264987)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 形態論 / 統語論 / 意味論 / 状態性述語 / 形容詞 / 繋辞 / コピュラ |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者の漆原は、研究期間中に得られた知見を活用しつつ、編著書『形態論』(朝倉書店、2016年)を上梓、「第1章 文法における形態論の位置づけ」の執筆と共に、形態・統語・意味のインターフェイスの視点から他の章へのコメントや修正等を行った。その結果、特に、連携研究者である岸本執筆の「第2章 語彙部門」および分散形態論を研究する西山 國雄執筆の「第4章 屈折形態論」は、第1章と呼応して、生成文法における文法の組織(organization of grammar)、および近年一層重要性が高まる形態論の領域に関する的確な記述となった。『朝倉日英対照言語学シリーズ』第4巻である本書は専門書であると同時に、学部の演習や大学院の概論等でも活用可能な体裁であり、言語学・英語学研究者に対しては、1950年代から現在に至る生成文法理論における形態論の変遷に関する俯瞰を与えると共に、学生にとっては、とかく興味・関心が統語論に偏りがちな日本の言語学・英語学の研究において、形態論やインターフェイスへの関心を高めるという啓発の役割を果たしている。 また、北海道大学言語学講演会において招聘講演「状態述語の形態統語論:助動詞「まい」・オノマトペ」(2016年9月8日(木)於北海道大学)を行い、平成29~33年度基盤研究(C)への端緒となった。 連携研究者の岸本は、上述の執筆に加え、“Valency and case alternations in Japanese”を出版、述語と格の関係を論じた。 同じく連携研究者の多田は国立国語研究所領域指定型共同研究プロジェクト『日本語から生成文法理論へ:統語論と言語獲得』第一回ワークショップ(2016年12月27日(火)於国立国語研究所)において、招聘講演「外心的ラベルづけの拡大について」を行い、本研究でも重要な役割を果たす最小主義理論の精緻化に関する分析を深化させた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
状態述語、特に日本語形容詞類と繋辞の分布に関する具体的事実に基づき、それらの統語構造、形態的実現、意味解釈について、2度のワークショップ(『状態性述語の形態・統語・意味をめぐって』、日本英語学会第31回大会ワークショップ(企画・司会 漆原 朗子)2013年11月9日(月)於福岡大学、および『状態性述語』2014年9月8日(月)於大阪大学)を行った。その結果、幅広く研究者と議論することができ、当初の課題に加えて、新たな視点による発見がなされた。 その後、研究代表者、連携研究者がそれぞれ、あるいは協働して分析を進めた結果、それらが論文・学会発表・著書として結実した。 また、研究代表者である漆原は、これまで扱ってきた形容詞(和語)・いわゆる形容動詞語幹(形容名詞 adjectival noun(AN))(和語・漢語・外来語)に加え、日本語の語彙の層(lexical stratum)において和語・漢語・外来語とは異なる特異性を有するオノマトペの名詞前修飾についても事実の観察と分析を開始した。その結果、オノマトペが、その本質的あり方により、それ自体では明示的な範疇が規定されていないことから、繋辞(「な」「の」)や軽動詞(light verb(LV)「する」「している」「した」)を伴う名詞前修飾や主述語化(「である」「する」)という非常に高い自由度を封している点に着目、これが「語根(root)は範疇を持たない」という分散形態論(distributed morphology)の主たる提案に対する格好な検証例となると考えるに至った。 そこで、本研究で得た具体的事実の記述的一般化の理論的意義について意見交換を行い、新たに渡辺 明東京大学大学院文学研究科教授も加えて平成29~33年度基盤研究(C)「分散形態論の批判的検証:日本語オノマトペの述語化と英語の転換に着目して」を申請したところ、採択された。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は以下の理由から一部の予算を執行できなかったが、その点を除き、おおむね平成28年度で終了した。さらに、研究遂行中にオノマトペの述語化の際の形態・統語・意味に関する興味深い事実に着目、新たに平成29~33年度基盤研究(C)を申請、採択された。 名詞前修飾の際の繋辞の形態「な」と「の」は通常は相互排他的で、前者はいわゆる形容動詞語幹(形容名詞 adjectival noun(AN))(1)および形式名詞「の」「こと」の前のANおよび述語名詞類(predicate nominals)(2)に、後者は述語名詞類が同格関係で名詞の前に生起する際に用いられる(3)。一方、オノマトペの場合、多くは両方可能であるが、「な」では場面レベル述語(stage-level predicate)(4)、「の」では個体レベル述語(individual-level predicate)(5)の解釈が優勢となる。 (1) 静かな/*の人 (2) 彼が静か/学生な/*のの(こと) (3) 学生の/*な人 (4) ぴかぴかな/?の窓 (5) ぴかぴかの/*な一年生(入学したての一年生) これらの事実の詳細な分析について議論を深めるため、当該研究には研究代表者である漆原、本研究課題の連携研究者である岸本、多田に加え、数詞・測量詞(measure phrase)・形容詞の直接/間接修飾に関して多くの研究業績を有する渡辺 明(東京大学大学院文学研究科教授)を新たに連携研究者に加えた。 また、そもそもオノマトペは日本語では豊富である一方、英語では限られており、述語化もしにくい。そのことは、ヨーロッパ諸語の中でも、英語においては、名詞・形容詞などが接辞なしで別の範疇に用いられる転換(conversion)が際立って多いという事実に鑑みると、何らかの理論的説明が必要と思われる。本研究課題の成果を次の研究課題に生かしたい。
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Causes of Carryover |
研究代表者である漆原は日本語学会秋季大会(平成28年10月29日(土)・30日(日)於山形大学)に出席予定であったが、同時期に国際化推進担当副学長としてイギリスの協定校3校・新規開拓校2校を訪問せねばならず、出席できなくなったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上述の学会出席の代わりに、東京で関係する研究者との研究打ち合わせや資料収集を行い、これまでの研究を振り返るとともに、研究期間中に見出した新たな課題を平成29~33年度基盤研究(C)に発展的に継承するための計画・方法についてさらなる検討を行う予定である。
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Research Products
(4 results)