2013 Fiscal Year Research-status Report
中国東南方言におけるヴォイスの構文ネットワークに関する研究
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24520451
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
佐々木 勲人 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (40250998)
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Keywords | ヴォイス / 主観性 / 粤語 / 湘語 / 受動文 / 使役文 / 処置文 / 受益文 |
Research Abstract |
中国東南地域の諸方言におけるヴォイスに関わる構文間に形成されるさまざまなネットワークのあり方を記述するために,『東南方言比較文法研究―寧波語・福州語・厦門語の分析―』(2002年,好文出版)の枠組みに基づいて,湘語と粤語のデータを収集し,方言類型論の観点から分析を行った。 方言データに関しては,昨年に続き,粤語のデータ収集を行った。既存の文法書を活用しつつ,受動文、使役文、処置文、受益文のデータを集中的に収集した。 これと並行して,ヴォイス構文のネットワークに関する分析を行った。中国語は,日本語に比べて,客観的事態把握を好む言語であることを,授与動詞や移動動詞に関わる現象の分析を通して明らかにした。 日本語では話者の視点に基づいてやりもらいの出来事が描かれていくのに対して,中国語ではあたかも舞台上のやり取りを眺めるかのように客観的に描いていく。話者である“我”も舞台上の参与者の一人であり,行為が話者に向けて行われる場合であっても,そのことを文法的に明示する必要はない。 また,日本語では行為が話者に向けて行われた場合,移動動詞「くる」によってそのことを文法的に明示する必要がある。このことは,話者の視点を基点として主観的に出来事を捉えていく日本語の事態把握の特徴を示している。これに対して,中国語ではそのような制約は見られない。話者の視点が受け手側にある場合であっても,それを文法的に明示する必要はない。 授与動詞や移動動詞に関わるこれらの現象からも,主観的事態把握を好む日本語と客観的事態把握を好む中国語の姿が見て取れることを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
主観性という観点を導入することによって,従来とは異なる視点からヴォイス構文の分析を行い,いくつかの新たな知見を得ることができた。また,粤語のデータ収集は順調に進んでいるが,湘語のデータ収集を急ぐ必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
主観性に関わるヴォイス現象の分析をさらに深めていく。東南方言と標準語を比較することによって,事態把握に関わる両者の差異を明らかにしていく。また、粤語の受動文や使役文、処置文、受益文などに関する分析をさらに進めるとともに,湘語におけるこれらの構文のデータ収集を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
適切なインフォーマントが見つけられなかったため,湘方言の調査が進まなかった。そのため、予定していた旅費および謝金が使用できなかった。 湘方言に関する現地調査を実施する。調査に当たっては,筑波大学と協定関係にある湖南大学の協力を得る予定である。 未使用額はこの調査旅費及び謝金に充てる予定である。
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