2016 Fiscal Year Annual Research Report
A Study of Voice Network in Southern East China
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24520451
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
佐々木 勲人 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (40250998)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 受益文 / 事態把握 / 主観性 / 語用論的制約 / 日中対照 / 東南方言 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、中国東南地域の諸方言におけるヴォイスに関わる構文間に形成されるネットワークを詳細に記述するために、各地の言語データを収集するとともに、方言類型論の観点から分析を行った。とくに授与動詞の文法化と関連のある受動構文や使役構文、処置構文や受益構文などについて、それぞれの文法化のプロセスを明らかにするとともに、方言間の共通点と相違点を明らかにした。 本年度は、恩恵授与を表す受益構文について、おもに日本語と中国語の対照を通して、事態把握(construal)の観点から考察を行った。目上の相手に対する受益表現に前置詞“給”を用いることは、中国語として何ら問題が生じないが、補助動詞「てあげる」を用いる日本語は容認されがたい。日本語の「てやる」には目上の人物に対して使いにくいという語用論的制約が認められるのに対して、中国語の“給”にはそのような制約が存在しないと指摘されてきた。 しかし、分析の結果、中国語の恩恵授与が相手との上下親疎の関係に対してつねに無関心であるというわけではないことが明らかとなった。話し手自身への恩恵授与を求める状況では、依頼内容が相手の消極的フェイスを大きく脅かすような条件のもとでは、目上の人物に対して“給”を用いることは憚られる。このことから、客観的な事態把握を好む中国語にあっても、話し手自身に対する恩恵授与を求める状況では、日本語と同様に主観的な事態把握が優勢となることが明らかとなった。 また、東南地域の諸方言では、北方方言のように授与動詞が受益前置詞に文法化を遂げる現象が観察されない。東南方言では“幇”や“搭”などの随伴動詞が文法化を遂げた前置詞によって受益文が構成されているが、こうした前置詞を用いた受益構文についても、北方方言と同様の語用論的制約が存在するかを検証した。
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