2013 Fiscal Year Research-status Report
日露語における「自然な言い回し」について:アスペクト・ヴォイスの認知類型論的研究
Project/Area Number |
24520472
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
副島 健作 東北大学, 高等教育開発推進センター, 准教授 (60347135)
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Keywords | アスペクト・ヴォイス / 言語の「自然さ」,「~語 らしさ」 / 日露語対照研究 / 認知類型論 / パラレルコーパス |
Research Abstract |
本研究は,言語の「自然さ」,「~語らしさ」ということはどういうことかについて理論化し,説明を試みるものである。すなわち,客観世界に対する事態認識の言語化および構文間の連関と対立の関係に反映される話者の事態認知上のカテゴリー化の動機づけを明らか にする。 研究方法は,1) 文献資料からの用例収集; 2) パラレルコーパスからの用例収集; 3) 母語話者への聞き取りによる用例収集; 4) 収集したデータの分析と意味地図の記述; 5) 母語話者への使用意識調査; 6) 認知様式や伝達慣習との関連性の分析・検証,の6段階の手続きによって行う。パラレルコーパス(対訳コーパス)とは,複数言語について,特に,意味内容がほぼ等しいと考えられる文について対応関係が付いているコーパスである。本研究では日本語は主体結果構文(シテイル),受動構文(サレル),客体結果構文(シテアル) ,ロシア語は受動構文 (быть + V-н-/-т-),不定人称構文 (主語がなく,動詞は3人称複数形) の構文について調査を展開していく。 当該年度に実施した研究成果として,まず,パラレルコーパスの電子化および用例収集を行った。書きことばを中心にロシアや日本の近代から現代にかけての,短編小説を中心にまずは日本語からロシア語へ翻訳されたものを選定して2作品,ロシア語から日本語へ翻訳された短編小説を2作品,DVDを用いてロシア映画のセリフのパラレルコーパスとして1作品を電子化した。 次に,電子化したパラレルコーパスを資料として,日本語は主体結果構文(シテイル),受動構文(サレル),客体結果構文(シテアル) ,ロシア語は受動構文 (быть + V-н-/-т-),不定人称構文 (主語がなく,動詞は3人称複数形) について,同一場面での構文の選択という観点から分析を行い,日本語とロシア語の客観世界に対する事態認識の言語化の差異,すなわち,日本語はロシア語に比べて事態を主観的に把握する,ということを主張した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,アスペクトとヴォイスという2つの範疇を統合的に眺め,機能意味論的な観点からロシア語と日本語を解析し,普遍性と可変性の検証を進めようとするものである。そのため,1ロシア語と日本語のパラレルコーパスの電子化と用例収集(およびデータベース化); 2ロシア語母語話者への聞き取りによる用例収集; 3収集したデータの分析と意味地図の記述; 4各言語の母語話者の使用意識調査,を研究目的の達成のために行う予定である。 このうち当該年度では1,3,4の実施を予定していた。パラレルコーパスについては,短編小説のうち原文が日本語のもの2作品,ロシア語のもの2作品,ロシア映画とその日本語訳の1作品の電子化を新たに行った。一方で,ロシア語から日本語へ翻訳された作品や映画やテレビドラマ,アニメなどの話し言葉からの用例収集についてはまだ十分な数がそろったとは言えない。こうしたデータの収集は次年度の計画と同時進行で行っていく。 3については,電子化したパラレルコーパスを資料として,日本語は主体結果構文,受動構文,客体結果構文(シテアル),ロシア語は受動構文,不定人称構文について,同一場面での構文の選択という観点から分析を行い,日本語はロシア語に比べて事態を主観的に把握する,ということを明らかにし,その成果を2つの学会で発表した。一方で,意味地図の記述にかんしては正確を期すため,間もなく完成する様々なジャンルからの資料も加味したうえで分析,記述に着手する予定である。 4については,上述したとおりデータの分析と意味地図の記述がより精緻になされたうえで,その結果を踏まえて行うため,実施することができなかったが,調査地であるロシアの大学とは調査実施と協力について同意をとりつけており,次年度に実施可能な状態にある。 また,このように,本課題研究はおおむね順調に進展しており,このままいけば予定通り研究目的を達成できると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は,未だ研究の蓄積が脆弱な状況であると言える言語の「自然さ」,「~語らしさ」ということはどういうことかについ て明らかにすることにある。そのため,日本語およびロシア語においてアスペクト,ヴォイスの両範疇にまたがる構文の形式と意味の 関係はどうなっているか,また言語間でどのような構文の分布パターンが見られるかを検証していく。研究目的の達成のため,次年度においてもひきつづき次の4点を実施する。 1ロシア語と日本語のパラレルコーパスの電子化と用例収集;2収集したデータの データベース化; 3収集したデータの分析と意味地図の記述; 4各言語の母語話者100名ずつ(計200名)の使用意識調査; 5認知様式や伝達慣習との関連性の分析・検証 これらの実施にさいしての研究費の使用計画は次のとおりである。1にかんしては,パラレルコーパスとなる図書(文学作品)やDVD(映画)などの購入と電子化の作業費が必要となる。2にかんしてはデータベース化のためのPCおよびデータ化の作業の費用が必要である。 また,収集したデータを保存し管理するためのハードウェア等も必要である。3にかんしては,アンケートの調査票作成のための諸経費,母語話者200名にたいする謝礼と,ロシア語母語話者への調査については調査に赴くためのロシアへの渡航費用が必要である。この調査では,対象者に気持ちよく協力してもらい,より妥当性の高い結果が得られるよう,商品券を謝礼として提供する。 次年度は最終年度にあたるため,1-4の実施をできるだけ上半期で終え,下半期は5認知様式や伝達慣習との関連性の分析・検証に力を入れたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該年度で計画していたパラレルコーパスの電子化と用例収集においてロシア語から日本語へ翻訳された作品や映画やテレビドラマ,アニメなどの話し言葉からの用例収集についてはまだ着手したばかりであり,それにかかる諸々の費用が使用されていない。また,各言語の母語話者の使用意識調査も実施を次年度に予定変更したため,旅費等を繰り越すことにした。 次年度の研究計画は,① ロシア語と日本語のパラレルコーパスの電子化と用例収集,② 収集したデータのデータベース化,③ 各言語の母語話者の使用意識調査,④ 研究成果の公表を行う予定である。 ①にかんしては,パラレルコーパスとなる図書(文学作品)やDVD(映画)などの購入と電子化の作業費が必要となる。②にかんしてはデータベース化のためのPCおよびデータ化の作業の費用が必要である。また,収集したデータを保存し管理するためのハードウェア等も必要である。③にかんしては,アンケートの調査票作成のための諸経費,調査協力者にたいする謝礼と,ロシア語母語話者への調査については調査に赴くためのロシアへの渡航費用が必要である。本研究終了後には研究結果をまとめた報告書を作成し,結果は国際学会等で発表する予定であるが,報告書の作成にかかわる印刷費用および学会出席のための旅費が必要である。
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