2012 Fiscal Year Research-status Report
話法のテクスト機能に関する日仏対照研究:内的独白を中心に
Project/Area Number |
24520476
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
高垣 由美 大阪府立大学, 人間社会学部, 教授 (60253126)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 国際情報交換 / フランス / テクスト言語学 |
Research Abstract |
内的独白の資料分析を行い,分析に使用する主要概念の再検討をした。分析に関しては,以下の3つの作業をおこなった。 ・作業1:資料の作成。内的独白が多用されている日本語の小説とそのフランス語訳を選び,原文と翻訳を比較して,内的独白の表現の違いを抽出した。日本語とフランス語,一部英語やイタリア語を加えた対照表を作成した。 ・作業2:言語形式による分類。抽出したデータの中で,呼びかけ辞・感嘆詞・間投詞・人称表現・視点マーカーなどの言語形式に注目して,内的独白の話法の分類を試み,日仏対照の考察を推し進めた。 ・作業3:文脈の考慮。内的独白の現れる文脈を観察した。特に括弧の有無に注目して調べ,その特徴を明らかにした。さらに一連の文章全体の構造への影響まで考察をすすめ,対照言語学的観点から再検討した。 上記の作業で抽出したデータのうちフランス語に関する分析結果を,7月にフランスで開催された第3回フランス語学世界大会で発表,成果を論文として公開した。この権威ある学会で発表したことで,研究成果を国際的な舞台で広めた一方,関連分野の最先端の研究動向を知り,世界各地の著名な言語学者と研究交流する機会を得て,日本語への応用の可能性に関して新たな知見を得た。また2月に名古屋大学で講演し,国内でも研究成果を広めた。 主要概念の再検討に関しては,内的発話理論の提唱者で,研究協力者のオルレアン大学のベルグニウ教授を10月に招聘し,関連学会と協力して講演会を実現,内的発話論を日本で初めて本格的に紹介した。この講演会での研究交流の結果,文学における内的独白に関する歴史的展望に関する知見を得,新たな資料を手に入れ,フランスとの国際交流がさらに進んだ。新たに得られた情報は,過去の研究成果と合わせて開発予定の教材に生かせる目途ができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定した内的独白のデータの分析は,ほぼ予定通りすすんだ。分析の過程で,部分的にイタリア語も参照することにしたため,分析の幅は広がった。ただ予定量の分析は終えたが,より多くの現象をカバーし,総合的なテクスト理論の確実な構築のためには,もっと多くのデータを調査する必要を感じたため,データの収集とその分析は,次年度も継続することにした。この初期段階の成果を,7月にフランス国リヨン市で開催された第3回フランス語学世界大会で発表し,論文として刊行することができた。さらに2月に名古屋大学で行われたシンポジウムで講演し,国内でも研究成果を広めることができた。 また予定外であったが,勤務校のプロジェクトで,研究協力者のオルレアン大学のベルグニウ教授を10月に日本へ招聘し,内的独白に関する講演会を関連学会と協力して実現させた。この国際研究交流の結果,文学作品における内的独白に関する歴史的展望に関する新たな知見を得た。またかなりの新たな資料を手に入れることができた。そして予想外の展開であるが,この時の情報交換がきっかけとなって,オルレアン大学が得意とするコーパス言語学の手法を,本研究に取り入れる可能性を考えることができるようになった。 この日本での研究交流により,内的発話理論で使用されている概念の再検討が容易になった。ただ詳細に検討した結果,現在のデータに基づいて対照言語学的観点からこの概念を使用することが,当初の予定よりもはるかに困難であることが判明した。この部分の理論的な発展と応用の可能性に関しては,引き続き検討する。 平成26年度を中心に行う予定であった関連教材の開発は,過去の研究成果と合わせることで,平成25年度初めに,初期段階のある程度まとまった成果を発表できる目途がついた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は,前年度に作成した基礎データに基づいて,日本語への応用を考えたうえで,対照研究のための内的発話理論の深化を目指すため,主として以下の作業1, 2, 3を行う。 ・作業1:各言語の特徴付け ― 日本語とフランス語の言語固有の内的独白の特徴を同定する。前年度に注目してとりあげた言語形式と,観察した文脈に関する考察を併せて,二言語の内的独白の特徴を一覧にまとめ,そこから各言語の特徴付けに関する一般化を目指す。 ・作業2:内的発話理論の可能性をさぐる ― 内的発話理論の概念を日本語との対照研究に応用するにあたっての問題点を考察する。これまでの作業の過程で出会った理論上の問題点を整理し,その解決を考える。前年度までの研究で,この方向性が難しいことがわかったので,場合によっては別の方向性も視野に入れて考察を進める。 ・作業3:理論の一般化 ― 内的独白以外の発話の分析への応用。話法と引用全般に関する対照研究の一般化を図る。 なお,前年度に予定した内的独白のデータの分析は,ほぼ予定通りすすんだが,理論化のためにはより多くのデータに当たる必要を感じているため,データの量を増やす努力を引き続き行うことにする。また,研究協力者の来日がきっかけとなって,本研究にコーパス言語学の手法を取り入れる可能性が見えてきた。もしこの方向が可能であれば,オルレアン大学所蔵のコーパスを利用して,研究の幅を広げると同時に,国際研究交流を増進したい。 平成26年度はテクストの一般的理論構築の基礎作りと理論的成果の応用として教材開発を行う。このうち教材開発に関しては当初の予定を変更して,一部平成25年度に前倒しをして行い,過去の研究と合わせた初期段階の成果を平成25年度初め頃に発表する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費:図書等文献資料(主として内的独白のデータの量をさらに増やすための資料が必要であり,関連文献をさらに広く集めて調査し,理論の進化を図る。) 旅費:研究成果発表 ・国際研究交流(中間段階の研究成果を国内外の学会,研究集会で発表する) 人件費・謝金:専門知識提供・研究協力,外国語の校閲 (インフォーマントを使った調査の謝金,およびフランス語の論文を三本執筆予定なので,その校閲料。) その他: 学会参加費・研究会参加費,複写費など
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Research Products
(5 results)