2012 Fiscal Year Research-status Report
統語的主語の義務化:英語史における非人称構文の衰退と非対格構文の出現
Project/Area Number |
24520556
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
大澤 ふよう 法政大学, 文学部, 教授 (10194127)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 統語的主語 / 義務化 / 非対格 / 非人称 / 語彙・意味優位型 |
Research Abstract |
「主語」は、言語にとっては普遍的存在であり、a priori な自明の存在として考えられがちである。しかし「主語」の本質を突き詰めその言語的な特質を追求した研究はそれほど多くはない。本研究は、それに正面から取り組むものである。 24年度は、非人称構文から捉えた「主語」の問題を研究することを中心にした。非人称構文に関しては伝統文法では、Jespersen (1909-49)やvan der Gaaf (1904)の先行研究があるがそれらの評価できる点と不備な点をまとめた。Keenan(1976)の研究は、多くの言語の主語を調べている点は大変評価できるが、その結果30以上の主語の特性を列挙することとなり、「主語」がかえって定義不可能になってしまったことをみた。また生成文法における主語とは、、時制(Tense)の投射であるTPの指定部に起こる要素であると分析されることをみた。(Chomsky 2000, 2001) このように、 「主語」とは統語的なものであるという生成文法的観点は現代英語を捉えるときには大変有効であるが、しかし、古い時代の英語や、古代の言語を考えるときには、主語の存在しない非人称構文が存在することや、英語においてはどうしてそれが消滅してしまったのか、が説明できないことを指摘した。これらのことから、言語変化の方向性を捉える理論的な枠組みが必要であるということを主張できるまでに至った。いくつかの国際学会にこれらの点をまとめた論文を応募し、受理されて発表することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
24年度は先行研究のまとめと評価をするということを目標に掲げていた。その上で、何らかの成果を発表できればと考えていた。 主語と非人称構文に関しては、様々なアプローチによる先行研究が多数存在する。伝統文法や、言語類型論、また生成文法でも多くの研究が存在するが、研究者によって指す範囲がまちまちであり、意味的な基準や形態的な基準と統語的な基準が混同されて使われている場合もある。それらの混乱や、混同、曖昧性を指摘し、主語とは統語的なものであるという観点から、先行研究を整理し直し、評価をすることに関しては上で述べたそれぞれの先行研究に関してそれなりに達成できたと考えている。その成果はいくつかの学会における発表という形であらわすことができた。従って非人称構文と主語という点ではかなり達成されたと考える。 非対格性に関しても、先行研究のまとめと批判をする予定であった。先行研究のまとめに関しては、関係文法を中心にかなりできたと考える。今後は、それらを踏まえて新しい独自の分析と仮説を提示することを目指して行きたい。非対格に関しては、今後虚辞it, thereを使った構文がどのように英語の中で広まっていったのか、を考察していく予定である。英語の歴史の中での非対格性の考察はそれほど多くはなく、印欧語系統ではない言語に多く先行研究が存在することがはっきりしたことで、本研究の英語史研究に於ける意義も再確認できた。
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Strategy for Future Research Activity |
仮説の構築を理論的に行い、それを実証するために古英語の文献で史的事実を確認し、仮説の妥当性を検証する予定である。まずは、仮説を理論的に支えるために英語だけではない、多くの言語の史的変化を研究し、普遍的な言語変化理論、主語論を構築したいと考えている。そのため、英語史以外の言語の歴史を研究している学者とも学会活動を通じて交流したい。コーパスも活用しながら、できるだけ原文の前後を考慮し、分析の精度を高めたいと考えている。 英語以外の言語の場合、古い時代のデータがかなり残っている言語と、余り残っていない言語があり、データに関しては困難性があるが、可能なかぎり取り入れていきたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額は1090円である。前年度スイスの学会に発表で出張した時機中泊その他の事由で、最終精算した結果の残額である。 2013年度は、構築した仮説と、それを証明する歴史の事実を時間軸にそって集めた内容をまとめていくつかの国際学会で研究発表する予定である。現在論文が受理されているのは、 International Association University Professors of English が3年に1度開催する学会で、本年7月に中国、北京の清華大学において開催される。世界中の英語史の研究者が集う学会において研究成果を発表する機会なので、そのための出張費用に当てる事を考えている。 また、論文を出版したいと考えていて、そのための英文論文校閲の費用などにも支出する予定がある。
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