2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24520594
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
山本 雅代 関西学院大学, 国際学部, 教授 (40230586)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | バイリンガリズム / 言語獲得/発達 / 受容バイリンガル / 同時バイリンガル / 第1言語としてのバイリンガリズム / 英語ー日本語 / 異言語間家族 |
Research Abstract |
本研究は子どもの言語発達研究に位置づけられるものであるが、関わる言語を2つ持つバイリンガルのそれである。こうした環境にある潜在的なバイリンガルの中には、両方の言語をほぼ同等レベルで年齢相応に発達させる子どももいるが、一方の言語(通常、社会の主流派言語)が他方より優勢という言語間に差が見られるケースが多数を占める。本研究は、その中でも優勢な言語では産出 (話す・書く)、受容 (聞く・読む) の能力共に年齢相応に発達させているものの、劣勢な言語では産出能力が極めて低い (ほとんど話さない)、受容バイリンガルと呼ばれるタイプのバイリンガルを対象にその劣勢言語の発達の状況、また発話が限定的な産出能力の量的・質的特性を明らかにすることを目的としている。 本年度の具体的な課題は以下の通りであった。 (1) 量的側面:量的にどの程度の発話があるのか (2) 質的側面:質的にはどのような特徴がみられるのか 現在、本年度に採録した対話データの文字起こしの誤謬訂正等を含めた確認作業を進めているが、これまでの暫定的な分析から、(1) 量的側面:月ごとの対話データにおける女児の発話総数に占める日本語発話の割合は、その時々の対話参加者、話題、対話前の言語環境等の要因の影響により変動が激しい (0.7%~66.5% --現在、誤謬訂正作業途中のため、これら数値は暫定的なもの) が、2012年11月、12月と月を追うごとにその割合が大幅に減少してきている。この点は母親からの聴き取りでも言及のあったことであり、今後の発話状況を注視していく必要がある、 (2) 質的側面:(1) の結果からも推測されるように、分析のための発話データの抽出が極めて困難で、発話データのさらなる集積が必要である。 そこで次年度は、これまでの自然発話の収集に加え、日本語による発話を誘発するような工夫も検討することを考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実績の概要にも記載した通り、本研究は、劣勢言語 (本研究では日本語) による発話の量が寡少であることを特徴とする受容バイリンガルを対象とした研究であり、必然的に、分析に必要な十分な量の発話データが得にくく、いかにそのデータの集積を得るかということが、本研究の大きな課題であり、また研究の進展を遅らせている要因でもある。 本研究の対象者であるバイリンガル女児 (以後、女児) は、データ収集の開始時には3歳の幼児であったため、当初は日本語話者の母親と過ごす時間が長く、日本語との接触量も現在よりも多かった。そして母親との日本語による対話は、母親との絆を深めるという、心理的、象徴的意味からも、その重要性は高かった。しかし、年月を経て、女児は現在、小学生 (7歳) となり、英語で授業が行われる現地の学校に通う身となった。そのため、母親と過ごす時間も少なくなり、日本語の入力が大幅に減少した。一方で、学校での授業、課外活動、級友との交流など生活のほぼすべてが英語で行われるようになり、実用的にも、心理的にも、女児にとって英語の重要性は大きく増し、それと反比例するように日本語のそれは後退した。こうした経年による言語環境的、心理的、社会的変化も、女児の日本語による発話を抑制する要因となっていると思われる。 今後は、自然発話のみでは収集しにくい日本語による発話データを増やすために、日本語での発話を誘発するような工夫を検討したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度に使用する予定の研究費が生じたのは、外注委託による文字起こし (下起こし) に係る費用が予想よりも少なかったこと、謝金等を含めて、現地での調査に関わり発生すると予想された出費が予定していた額よりも低く抑えられたこと (たとえば、謝金 -- 円高の恩恵)、あるいは不要であったこと ( たとえば、面談場所の賃貸料) 、加えて、研究遂行方法の性格上、出費がドルによる現金払いあるいはクレジットカード払いになることが多かったため、円高の恩恵もそれなりに得られたことが大きな要因であったと考えている。しかし、次年度は、円安が進むことを想定して、本年度の支出実費より少し余裕を持たせた予算を組んでおきたいと考えている。 次年度の研究の進め方は、原則、これまでと同様に、毎月の対話データの収集とその分析、経年による言語環境および日常の言語使用の状況などの聞き取りを年2度実施したいと考えている。それに加えて、「11.現在までの達成度」の項で記載したように、自然発話のみでは採集しにくい日本語による発話データを増やすための発話誘発方法 (たとえば、電子図書や電子媒体の画像などを用いて発話を引き出す方法) を検討したいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の使用計画であるが、 (1) 物品費:耐久年数に近づいてきた機器 (たとえば録音データ採録に使用しているICレコーダ) の買い換え、また発話を誘発するための電子図書や画像などの利用に必要な機器の新規購入、また電子図書の購入を予定している。 (2) 旅費:本年度と同様に面談と資料収集のために2度の現地への出張を予定している。 (3) 謝金等:これまでは面談のための場所を賃借する必要はなかったが、今後、そうした必要が出ることも視野に入れて、その予算を確保しておきたい。 (4) その他:文字起こし (下起し) の精度を高めるために第二次の下起しの外注委託の可能性も視野に入れた予算を組んでおきたいと考えている。
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