2012 Fiscal Year Research-status Report
第二言語習得における言語知識と自発的産出に関する実証的研究―形態素習得からの考察
Project/Area Number |
24520684
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
庄村 陽子(一瀬陽子) 福岡大学, 人文学部, 准教授 (30368881)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
梅田 真理 福岡大学, 人文学部, 非常勤講師 (80620434)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 国際情報交換 アメリカ、イギリス |
Research Abstract |
本研究課題は第二言語習得における学習者の第一言語からの影響と学習可能性を検証するものである。特に形態素の解釈と産出に焦点を当てて研究を行っている。24年度は日本語の複数形を表す形態素「た ち」についての調査を行った。日本語は可算名詞に単数形・複数形の区別を必要としない。しかし、日本語には生物名詞のみに対して複数形「たち」が使用されることがある。この「たち」という形態素は単に複数を表すのではなく、限定性(definiteness)、あるいは特定性(specificity)も表すと主張されている(Ishii, 2001; Hosoi, 2006, ほか)。24年5月から8月にかけて、まずは予備調査として日本語を第二言語として学ぶ英語話者16人を対象に「たち」の使用について調査した。英語では複数を表す形態素は可算名詞に必ず伴わられるが、「たち」は特定性のない名詞には伴われない。予備調査では、学習者が複数を表す加算名詞に、特定性があるかどうかに関わらず「たち」を使用するかどうかを調査した。結果は学習者は複数の加算名詞に必ず「たち」という形態素を加えることはないことが明らかになった。この結果は学習者が自らの第一言語にはない複数形態素「たち」の特性を習得していることを示している。現在本テスト実施中である。本テストでは、「たち」が特定性のある名詞にしか使われない、という要素に加え、総称的な名詞(generic nouns)には使われない、という二つの要素が習得可能であるか、について調査し、学習者の「たち」の解釈を検証する。本研究では、第二言語としての日本語習得に対する理解を深めるとともに、学習者が自らの第一言語に存在しない単数/複数の数の概念を表す形態素が習得可能であるかを検証する。また習得可能であるとするとその発達過程はどのようなものであるかを明らかにするものとなる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本語と英語の単・複数の形態素習得に関する研究を行っているが、第二言語としての日本語の数を表す形態素習得の調査はほぼ終了している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの第二言語としての日本語の単・複数の形態素の習得を踏まえ、第二言語としての英語の単・複数の習得研究を行う予定である。前述のとおり、日本語と英語では数の概念を表す形態素に違いが存在する。日本語を母語とする英語学習者を対象に、英語の単・複数の形態素が習得可能であるかを検証する。この双方向的な研究を通し、第二言語習得における数素性の習得可能性と習得過程を明らかにすることを期待している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
繰越金が発生した大きな理由としては、当初ボストンで開催される学会での発表を計画していて応募し、発表許可も下りたのだが、その後データがまだ不十分との判断を自分たちで下し、海外発表を取りやめたことが挙げられる。 平成25年度の使用計画としては、数素性を持たない日本語を母語に持つ学習者が、英語での単数形・複数形を適切に使用・産出できるかといった英語の数素性の習得に関して調査する予定である。もし習得が不可能である場合、Hawkins (2000)他が主張するRDHを支持する結果となる。反対に習得が可能である場合はさらにどのように第二言語学習者の言語知識が変化していくのか探る必要がある。本実験においても、筆記タスクと発話タスク両方を用いて行う。筆記タスクでは文脈に、より適切な名詞を単数形、或いは複数形で表すことができるかを調査する。発話タスクでは、物語、或いは絵について説明してもらい、単数形・複数形が正しく産出できるかを調べる。また、 Goad & White (2006)が主張する音律構造の移転に関しても検証する必要があり、規則名詞と不規則名詞の発話時の正確さについて実験調査を実施する計画である。それにより、数素性の習得においてもL1の音律構造の影響が存在するかどうかが明らかになると思われる。さらには、過去素性習得実験と同様に、初級・中級・上級・ネイティブ同等レベルの学習者を実験に含むことで、学習者の数素性習得の発達過程を考察したい。 被験者は、日本語が母語の成人の英語学習者で、日本語のみを母語として使用している者に限り、幼児期に他言語を使用していたものは除外する。日本では英語を義務教育の一環として学習するため、12歳以降義務教育で英語を中学・高校で学習した者は被験者に含むが、20歳未満の時に長期間に渡り英語圏に留学していた者は除外する。
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