2013 Fiscal Year Research-status Report
小学校「外国語活動」への英語初期リテラシー指導導入可能性の考察
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24520703
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
池田 周 愛知県立大学, 外国語学部, 准教授 (50305497)
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Keywords | 外国語活動 / 教員意識 / 初期リテラシー |
Research Abstract |
平成25年度は、「外国語活動」における英語初期リテラシーの扱いに関する実地調査を継続するとともに、初期リテラシー指導導入に対する教員意識を、2つのアンケート調査によって明らかにし、成果をまとめて公表した。 調査1では、「外国語活動」導入前年度に実施した小学校教員対象のアンケート項目を一部修正し、5・6学年の「外国語活動」が一通り実施された段階で再度実施して、両年度のデータを比較考察した。結果から、「外国語活動」導入後2年を経て指導体制が整ってきたことなどにより、リテラシー導入に対する小学校教員の意識がやや柔軟になったことが分かった。しかし、概して教員の意識は二分しており、文字が児童の英語習得の手がかりになるという意見に対し、リテラシー指導は「英語への慣れ親しみ」を超えるという見解も見られた。また評価につながる懸念や、英語の読み書きよりも国語科でローマ字指導を徹底する必要性の指摘も多かった。 さらに調査2では、「外国語活動」担当の小学校教員と、小学校で「外国語活動」を経験した1年生英語科担当の中学校教員の意識の比較を行った。結果から、「外国語活動」への英語リテラシー導入に対し、小・中学校教員いずれも肯定的な見解が5割を超えていたものの、否定的見解も小学校で4割弱、中学校で3割弱見られた。中学校教員の方がより肯定的であったが、いずれの見解においても「苦手意識・英語嫌いを生まない」ことが共通の理由であった。さらに中学校教員特有の見解として、「外国語活動」指導内容の学校差や学校外での英語学習経験の違いにより、中学校入学時の生徒の能力や関心に差が生じており、それが中学校英語科へのスムーズな移行を妨げることへの懸念があり、小学校教員には「外国語活動」の目標の重視、音声コミュニケーションを通した英語への「慣れ親しみ」を強調する特徴が見受けられるなど、研究フィールド理解の有意義な情報となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究初年度から現在まで、実際の「外国語活動」において、英語の文字や読み書き技能がどの程度扱われているのか、またその方法や児童の反応などについて授業観察やインタビューなどを行い、フィールド理解を進めてきた。また平成25年度末までに、本研究の目的の1つである「小学校段階での英語初期リテラシー導入に対する小・中学校教員の意識の比較考察」において、小学校の研究指定経験の有無なども考慮するなど、体系立った2つのアンケート調査を通して、有意義な知見を得ることができた。特に、児童への英語指導経験年数や英語の習得過程に関する知識などにより、教員のリテラシー指導に対する意識が変化し得ることや、「英語嫌いを生み出さない」ことを共通理由として、教師の意識が二分していたことなどは興味深い結果であり、成果を学会発表や論文を通して公表し、幅広く情報提供を行うこともできた。 また、「文字・初期リテラシー指導の意義」や「英語母語話者に対する文字・初期リテラシー指導法」の考察を進める中で、日本語と英語の音韻構造の違いが、リテラシー習得の必要条件となる音韻認識の発達に及ぼす影響の深刻さが認識され、具体的に日本語の音韻構造のどの特徴が、英語の音韻認識技能のどの側面に、どのような影響を及ぼすのかについて仮説を立てることもできた。これに基づき、実際に日本語を母語とする小学生を対象に、英語の音韻認識の発達レベルを明らかにする調査計画を立てたが、将来的な小学校英語教育開始学年の引下げを考慮して、調査対象学年を拡げる必要が生じた。調査タスクを中学年児童にも理解できるものに修正し、調査方法も児童に負担がかからないように調整したため、調査開始時期が若干遅れたものの、結果の分析と考察、成果の公表まで年度内に実施できる予定である。この調査結果は、英語初期リテラシー指導プログラム構築においても重要な基礎データとなることが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、まず文献研究により、「外国語活動」に英語の初期リテラシー指導を導入する意義、および「どの程度まで」「どのように」指導すべきかについて理論的考察を継続する。その際、昨年度公表された「外国語活動」を含む小学校段階での英語教育に関する方向性を考慮する必要性を認識している。具体的には、「外国語活動」開始学年の引下げと5年生からの英語の教科化を視野に入れ、中高学年児童の認知的発達段階と、小学校での教科としての英語教育と中学校英語科教育が、リテラシー指導の観点から、どのように連携すべきかに焦点を当てて考察していく予定である。 今年度は特に、英語と日本語における文字と音の対応関係や、最小音韻単位の相違などに関するこれまでの理論的考察に基づき、英語の初期リテラシー習得のレディネスとなる「音韻認識」の発達について、実際に小学校3~6年生を対象に調査を行う。日英語間では、リテラシー発達の駆動力となる音韻認識の特徴が異なる。日本語の音の区切りの最小単位がモーラ(母音+子音)であるのに対し、英語は音素を最小単位とし、さらに音節内の音の区切りも存在する。調査を通して、リテラシー導入のタイミングを考察するために、英語の音韻認識技能が日本語発達に伴って促進されているのか、それともローマ字学習に影響を受けるのか、さらに学年が上がるにつれて日本語を母語とする児童の音韻認識が英語を母語とする児童のそれに近づくのかを明らかにする。結果は、学会発表と論文により公表するとともに、最終的に小学校英語教育のどの段階で、どのようにリテラシー指導を導入すべきかを提案するための理論基盤とする。 さらに様々な言語を母語とする英語学習者への初期リテラシーの指導法や教材、その成果に関する文献、実際の授業観察などの資料に基づき、日本語を母語とする児童に親しみのある語彙を利用した指導プログラムの構築も目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度末の段階で「次年度使用額」が生じたのは、主として以下の状況のためである。 1.平成25年度9月に実施予定であった英語母語国における初等教育における英語リテラシー指導用教材の考察、および現地での実際の授業観察が、それまでの教員意識に関する調査結果の分析や成果公表の遅れや、本務校での行事等により実施できなかったため、平成26年度にずれ込んだ。また、2.英語初期リテラシーの教材分析に先立ち、小学校3~6年生の英語音韻認識調査を考察し、日本語を母語とする児童への指導において特に重視すべき側面を明らかにする必要性が認識された。今後の研究の推進方策にも記述したように、小学校英語教育の低学年化などを考慮した手法の見直しにより調査実施が平成26年度早々となり、その実施費用、および教材の購入費などの執行が遅れている。 上記の状況により生じた「次年度使用額」は、「平成26年度分として請求した助成金」と合わせて次の計画に従って使用する。 1.平成26年度における当初計画に沿った研究(英語母語話者対象の初期リテラシー指導に関する文献資料収集と分析考察、および日本の小学校英語教育カリキュラムに合わせた指導法の構築)を進める。2.平成25年度に実施できなかった、日本の小学校における初期リテラシーと音韻認識の指導プログラムの構築に向け、英語圏の初等教育における指導法に関する資料や教材の収集を行うための実地調査を行う。3.小学校3~6年生対象の英語音韻認識調査の成果を、日本語を母語とする児童の英語音韻認識の発達において英語の音韻的特徴が影響する事例として公表する意義があるため、海外の学会で発表する。4.研究最終年度として、本研究事業の成果をまとめる。
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Research Products
(5 results)