2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24520743
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
黒川 みどり 静岡大学, 教育学部, 教授 (60283321)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小嶋 茂稔 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (20312720)
與那覇 潤 愛知県立大学, 日本文化学部, 准教授 (50468237)
姜 海守 国際基督教大学, 付置研究所, 研究員 (60593928)
山田 智 静岡大学, 教育学部, 講師 (90625211)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 中国 / 内藤湖南 / 他者 / アジア / 朝鮮 |
Research Abstract |
1.研究会の開催・テキストの講読のためにメンバー全員がほぼ月に一度研究会に集い、『内藤湖南全集』(全14巻、筑摩書房、1969~76年)の購読を行うとともに、研究中間報告として論集を作成するために、その各自の分担論文の報告と討論を積み重ねた。8月には静岡大学で論集執筆に向けての合宿研究会も行い、相互の関連なども確認しあった。 2.後半は各自が論文執筆に勢力を注ぎ、年度内に論文を提出し終えている。論集は、山田智・黒川みどり編『内藤湖南とアジア認識』(勉誠出版)として、2013年5月に刊行を予定している。 3.吉野作造記念館(宮城県)と秋田県鹿角市の内藤湖南生家、先人歴史資料館に史料調査に出かけ、吉野作造関係、内藤湖南関係(生い立ちに関わる部分が中心)の史料調査・収集を行った。それらの成果の一部は、刊行予定の論集に反映されている。 以上の研究、とりわけ論集の執筆をつうじて、内藤湖南の思想形成から、内藤の『支那論』『新支那論』に代表される中国認識のありようを世に問うた。内藤の中国観に対する評価をめぐる議論は、主として中国史などの中国を対象とする学問領域の担い手によってのみなされてきたため、たとえば内藤の思想形成についての検討もその漢学的な素養の形成が中心となり、そこから導かれる結論は、「漢学者」あるいは近代においてその後継者と位置づけられた「支那学者」としての内藤の思想の正統性に留まるものであった。しかし内藤が生きたのは漢学の全盛期である江戸時代ではなく、西欧で育まれた近代社会科学思想を積極的に摂取することを国是としていた近代の日本であり、その近代日本を舞台に展開された、内藤のある種異様ともいえる中国観・文明観を日本近代思想史の文脈の中での学問的検討を経て提示できたと考えいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
上述したように、この段階でひとまず中間報告として論集を刊行できたことは大きな成果であると考えている。ほぼ1920年代までの内藤湖南のアジア認識については、独自の見通しを提示できており、先行研究に投げかける問題提起としても大きいものがあると考える。 先にも述べたように日本近代思想史の文脈のなかで内藤を学問的に位置づけた研究はこれまで存在しなかったとみてよく、そこに新たな境地を切り開くと共に、中国史を中心に東洋史研究者が抱いてきた内藤像を大きく切り崩したと思われる。 また、朝鮮認識という点からも、それを欠いたまま構築された内藤のアジア認識の問題性を指摘し、かつ史学史の観点からも内の東洋史の限界性について指摘を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
内藤湖南に関する研究は、まだ後半半分程度を残してはいるが、一定の見通しをつけることができたので、今後は、対象を広げながら近代日本の中国認識を問う研究を行っていきたい。現時点で取り組みを開始しつつあるのは、従来から参照軸としている吉野作造に加えて、津田左右吉、橘樸、白鳥庫吉といった人々である。今回刊行した論集の執筆メンバーにも加わっていただいた松本三之介氏は、近代日本の中国認識を眺望した研究をまとめており(松本『近代日本の中国認識』以文社、2011年)、それを参考にしながら他の知識人の中国観をできるかぎり射程に入れながら、内藤の『支那論』『新支那論』の評価を再検討し、さらに1930年代以後の彼の中国をめぐる言説がどのような意味を持ち得たのか、議論を深めていきたいと考えている。 その上で、内藤を軸に据えながら、近代日本の中国認識についての新たな見取り図を提示したい。東洋史学に軸足を置いた内藤を中心に据えることで、これまでの研究では従前ではなかった、日本史と東洋史、あるいはその際の西洋史をも射程に入れた歴史認識の枠組みの問い直しにもつなげることが可能であると考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度も、これまで同様、メンバーが頻繁につどい、共通テキストを読み、議論を行うことを基本にしているため、約月1回の東京での研究会開催のために、名古屋、静岡等居住者の旅費が必要になる。 また、内藤以外の思想家の研究を進めるためにそれらの文献を購入、収集したいと考えている。 他方、内藤湖南研究は台湾で先駆的な成果が出されており、内藤は台湾を訪問しているため、その研究成果を収集しつつ、かつ内藤関連の資料を集めるための台湾出張を予定している。
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Research Products
(16 results)