2013 Fiscal Year Research-status Report
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24520749
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
黒田 洋子 奈良女子大学, 古代学学術研究センター, 協力研究員 (70566322)
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Keywords | 奈良時代 / 書状 / 正倉院文書 / 草書体 / 文字画像データベース |
Research Abstract |
本研究の目的は奈良時代に日本の官人達が書き残した書状を通じて、書状文化の原点を探っていくことにある。その方法として従来の書状研究が行ってきた古文書学的様式論を脱却して、新たな視点からの書状研究を試みている。25年度も当初の計画通り二つの目標設定に沿って研究を続行した。 第一点目。従来の古文書学に立脚する書状研究においては研究対象とされてこなかった編纂史料中の書簡類に着目し、その内容や用語の分析から検討することを目指す。 第二点目。筆者は以前の研究において奈良時代に書かれた啓・書状が、公文とは意識的に書体を変えて草・行体で書かれていることを指摘した(「啓・書状について」(「正倉院文書訓読による古代言語生活の解明」(平成19~21年度科研基盤研究(C)(課題番号19520396研究代表者桑原祐子))。よって、写真資料の観察により、書状が書かれている書体に着目することでその性格を探ることを目指す。以上の二つの視点に基づく25年度の進捗状況は以下の通りである。 第一点目。24年度は主に日本の編纂史料に内包される書簡を中心として蒐集した。25年度はさらに蒐集範囲を拡大して、中国における編纂史料に内包される書簡の蒐集に着手した。『文苑英華』所収の関係史料は24年度末から着手しているが、25年度は王羲之の法帖類とそれらを含む宋代成立の『淳化閣帖』を中心にして蒐集し、入力作業を行った。 第二点目。正倉院文書は現在一般に写真が公開されており、写真による観察が可能である。それを用いて奈良時代に書かれた書状の文字画像データベースの作成作業を行っている。作業するに当たっては24年度に引き続き奈良文化財研究所都城発掘調査部史料研究室との共同研究を行っている。24年度は写真のスキャンニング作業を中心に行ったが、25年度は写真からの文字の切り出し・タグ項目の設定などのほか、公開に向けての確認作業を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で述べた二つの研究目標に沿って研究の進行状況を述べる。 第一点目。25年度は主に王羲之の法帖類と『淳化閣帖』の蒐集・入力作業を行った。王羲之の法帖・『淳化閣帖』については、①原本が草書体で書かれていること、②断片的であること、③写本系統が複雑であり、偽帖といわれるものも含まれること、などから扱いにはかなり慎重を要す。しかし現段階においては、従来の研究を統括した信頼できる注釈研究も複数出版され、相当数の写本研究が蓄積されている。そこで王羲之の法帖と『淳化閣帖』については中田勇次郎『王羲之を中心とする法帖の研究』・水賚佑『淳化閣帖集釋』・二玄社本『淳化閣帖』等を対照させて入力し、注釈と諸説等を参照できるよう配慮した。また『文苑栄華』に関しても写本や刊本によって字句の異同があるので中華書局本と四庫全書本の刊本を並列させて対照できるようにした。 第二点目。書状の文字画像データベースの作成に関しては、奈良文化財研究所と共同で作業を行っている。ところで、奈良時代の文字データベースに関しては、現在東京大学史料編纂所においても漸次公開が進められている。しかし本研究においては正倉院文書の中の書状という限定した枠組みの中において、まず様々な試行錯誤や実験を行うことで、より有効で活用しうる史料データベースの構築を目指している。25年度までに文字の個別画像制作作業の下処理が約7割終了し、タグリストの作成が約20点ほど終了した。この時点でシステム開発データの運用実験、課題を抽出しての確認作業・討論を繰り返し行っている。そこで文字データベースとしての特色を出すための工夫として、書状を書写した人物が書いた、他の文書情報をタグ付けすることを提案した。その準備作業として報告「白丁の書記能力をさぐる」を行った。 なお公開にむけてのシステム開発に関しては一部業者に依頼した。
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Strategy for Future Research Activity |
当研究の今後の方向性と展開に関して、実績概要で述べた二点に沿って述べる。 第一点目の作業に関連して、法帖関係の資料を集積している間に、書状理念の源流をさぐるには、書論関係史料の研究が必要不可欠であることがわかった。そこで25年度は、漢~宋代までの間に書かれた書論についても詳細な検討を開始した。書論は従来、書道史の研究者が芸術的観点から研究を進めるのみで、日本古代史学・史料学の研究者によって正面から取り上げられることはなかった史料である。これら書論の記述と、日本古代史学が扱う、実際に八世紀に日本で書かれた正倉院文書の観察結果とを照らし合わせると、書状と書体について新たな知見が得られる可能性があることがわかってきた。その関連報告として「孫過庭の「書譜」と章草回帰について ~台湾故宮博物院 特別展「中国書道の展開 -筆有千秋業-」を見て」を行った。 今後は、日本の正倉院文書が東アジアの文字文化を映し出すものとして、筆者の想像していた以上に貴重な文化財であることを証明するべく研究をまとめていく予定である。 第二点目について。26年度は奈良時代の書状の文字データベースの公開にむけて継続して作業を行っていく。予定では6月ごろをめどにシステムの改良などの基礎作業を終え、8月頃に完成させ、ひとまず研究者版の構築を目指す。 25年度に提案した、文字データベースとしての特色を出すための工夫についても、今後さらに共同研究において推進していく予定である。すなわち正倉院文書が書写した人物の個別情報を追うことが可能である点を最大限生かして、書状を書写した人物が書いた他の文書情報をタグ付けする予定である。なお、画像情報の公開に関しては所蔵機関との交渉・調整を慎重に進めた上で準備を進めていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
第一作業にはデータベース作成のための書簡史料の入力作業の人件費が、第二作業には画像の切り出し等の作業に人件費がそれぞれ必要である。これらの作業は年度をまたいで継続して遂行している。そのため25年度3月分・26年度4月分の人件費に充当する計画で当初から使用額を考慮した。 上記の二点の作業のために25年度3月分と26年度4月分の人件費に充当する。
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