2012 Fiscal Year Research-status Report
近世後期における環伊勢湾経済圏の産業及び流通からみた地域市場圏の再構築
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24520777
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nihon Fukushi University |
Principal Investigator |
曲田 浩和 日本福祉大学, 経済学部, 教授 (00329765)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 伊勢湾 / 産業 / 流通 / 金融 |
Research Abstract |
今年度の研究として地域市場圏内部の産業・流通・金融の相互関連性を村主体の動きとして明らかにすることができた。尾張国知多郡下半田村が醸造業・海運業を盛んにしていたことはこれまでの研究で明らかである。その背景には村の経済システムがあり、村全体の繁栄につがっていることが新たに判明した。個人の土地持高を基準とした経済力ではなく、村は総合的な経済力によって個人の経済力を把握し、その経済力に応じ村入用の負担額を決めた。産業がもたらした相応の経済力を一定度村が評価することで、村が産業を支える仕組みを作ることができた。さらに、村の経済力が周辺地域に大きな影響を与え、その村への求心力を高めた。近代に入り、郡役所が配置されるなど経済のみならず政治の中心地化の現象もみられる。 また、18世紀の環伊勢湾経済圏を考えるうえでの熊野と桑名・四日市と知多・西三河の三地の相互関係が指摘できる。とくに尾張国知多郡小鈴ヶ谷村の荒廃農村復興に酒造業が大きな影響を与えたことに注目した。酒造米を桑名に、炭薪を熊野から移入し、地域の産業を育成していった。江戸を市場に酒を販売するための地域市場圏の動きにつながる。2013年度の研究成果として公表の予定である。 さらに、2012年度は奥立廻船の解明に力を入れた。尾張国知多郡亀崎村・下半田村の酒造業と結びつく事例はこれまでも明らかにしてきた。今回西三河の酒造家の動向をみることができ、さらに、鳴海酒造業とのつながりも示唆することができた。この点については、2013年度の課題としたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2012年度は計画通り、熊野・東京・伊勢への調査を行い、史料収集にあたった。麻流通の解明に向けた長野への調査は年度内には行えなかったものの、5月調査が決定している。すでに予備調査は済ませており、おおよその方向性は念頭にある。さらに受け皿としての名古屋商人についても、断片的であるが解明が進んでおり、信州の麻商人・輸送業者と名古屋商人の関係の解明が予想できる。 2012年度の研究により、環伊勢湾経済圏を生産だけではなく消費の観点で捉えなおすことができたことは大きな成果である。その視点は三つある。①消費を念頭に置いた生産のあり方が人々の生活意識に与えること、②原料が加工品になることで生産が消費につながること、③生産によって生み出された経済力が生活・文化の消費の原動力になることである。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は昨年度の研究をさらに進めて、18世紀から19世紀にかけての消費社会を念頭に置いた生産を地域市場圏の枠組みのなかで考える。銘柄と品位の関係を地域市場圏のなかで捉え直す。作業仮説として、伊勢・名古屋・知多・三河産木綿を比較した際に知多は高級品を生産することはできないが、市場は高級品のみを望むわけではなく、低級品を望むこともあるため、地域における区分けが可能となる。この点を地域経済圏のなかで考える。 さらに、大都市名古屋の求心性について考える。商取引の場面だけでなく、商人が新田を持つ意味や堀川をめぐる名古屋と熱田の関係による商人の性格の違いを明らかにする。堀川沿いの土地利用は舟運を考える意味で大きく、名古屋の町の成立による性格の違いは名古屋商人論のみならず、地域市場圏論を考える意味でも大きい。名古屋の町やそこに住む居住者(本拠とする者)を詳細にみることによって、新たな地域関係を構築することができる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、2TBの小型ハードディスクの安定性が確保されなかったため、次年度に持ち越した。平成25年度は、史料収集のために東京・伊勢・滋賀に行く予定である。東京は国文学研究資料館・国立国会図書館・早稲田大学図書館である。国文学研究資料館では、おもに中埜半左衛門家文書の閲覧・撮影を行う。国立国会図書館では、おもに尾張雑書のマイクロ史料の収集を行う。早稲田大学では、雑誌論文の収集を行う。伊勢では神宮文庫で調査を行う。おもに伊勢湾海運史料に収集にあたる。滋賀では滋賀大学経済学部附属図書館で、近江商人との伊勢・三河との取引、近江商人の名古屋への進出に関わる調査を行う。上記に関わる費用として、旅費交通費112千円、マイクロ撮影委託費500千円、マイクロフィルム購入費120千円を計画している。三河屋文書に関する史料の購入費など700千円、三河屋文書整理費として280千円を計画している。
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