2012 Fiscal Year Research-status Report
上海のユダヤ人難民社会における生活再建に関する研究
Project/Area Number |
24520806
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
阿部 吉雄 九州大学, 言語文化研究科(研究院), 教授 (70231975)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 上海 / ユダヤ人 / 難民 / 生活再建 |
Research Abstract |
第2次世界大戦を含む10年以上の間(1938~1949年)中国の上海には、ナチスドイツに追われた中欧・東欧系ユダヤ人1万7000人の難民社会が存在した。本研究は、彼らが上海でいかにして生活再建に取り組んだかを明らかにする。 平成24年度は、上海のユダヤ人難民社会が発行した新聞の記事を手がかりに、難民に対する医療およびコミュニティの創設について調査した。 1. 1939年から発行された『Shanghai Jewish Chronicle』紙は上海のユダヤ人難民新聞のうち最も重要なものの1つであるが、1941年半ばから1942年後半にかけて多数の難民医師たちにより執筆された「Medizinische Wochenschau / Medical Weekly Review」(週間医学ニュース)という記事を掲載した。そこで取り上げられたテーマから、難民たちが様々な病気(チフス、結核、ジフテリア、コレラ、赤痢、マラリア、皮膚病、神経障害、一酸化炭素中毒、壊血病、回虫)の脅威にさらされていたこと、貧弱な衛生設備(トイレ)や害虫(蚊、シラミ、トコジラミ)など上海の住環境の問題が存在したこと、ヨーロッパとは異なる高温多湿の気候による病気に対して難民たちが無知であったこと、未経験の伝染病に難民医師たちが苦闘したことが明らかになった。 2.ユダヤ人難民たちは上海在住のセファルディ系およびロシア系ユダヤ人の支援を受け、宗教的にも当初両ユダヤ人社会の礼拝に参加していたが、言語や様式の点で慣れ親しんだドイツ式の礼拝を希望して1939年7月に独自の教区を設立し、9月から週刊で教区新聞を発行した。その記事の分析から、教区が宗教活動だけでなく、誕生・結婚・死亡などの戸籍管理、高齢者や病人への福祉、難民への就業支援、芸術家へのユダヤ文化奨励、青少年の教育など、コミュニティ活動の中核になっていたことを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、ナチスドイツに追われた1万7000人の中欧・東欧系ユダヤ人難民が、ヨーロッパとは文化、習慣、言語、気候などが大きく異なる上海において行った生活再建の様子を解明することである。 雑誌論文「資料調査:『Shanghai Jewish Chronicle』の「週間医学ニュース」」(『言語文化論究』)では、高温多湿で不衛生な上海においていかなる病気がユダヤ人難民社会にとって脅威であったか、そしてその具体的な原因の所在を、難民医師たちによる啓発記事から明らかにした。 同じく雑誌論文「資料調査:上海のユダヤ人難民社会の教区新聞の記事から(1939年)(上)」(『言語科学』)では、実質的にユダヤ人難民たちの自治組織として機能していた上海ユダヤ教区が発行した新聞の分析により、多くの個人の名前とその活動、コミュニティが抱えていた諸問題や日常生活の様子を知ることができた。 平成24年度に上海市図書館ならびに上海市档案館(史料館)で行った調査により、上海のユダヤ人難民に関連する多くの文献や資料を発見した。また、最近出版された難民たちのメモワールも多数購入した。それらの分析は順調に進行しており、平成24年度に行った研究成果はその一部をまとめたものである。 以上のことから、特に3年計画の基礎固めという点で、初年度として十分な成果を上げていると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
〔平成25年度に行う活動〕平成24年度に購入した図書や収集した資料の分析を続ける。特に新聞の広告欄に注目し、ユダヤ人難民たちが上海でどのような経済活動を行っていたかを明らかにする。 大学の夏季休業期間中に上海市図書館および上海市档案館(史料館)における1週間程度の資料収集調査を行う。特に平成24年度に発見し、これまで他の研究者によって言及されることのなかった1000点以上の未整理資料を収集(コピー)するとともに、さらなる未発見資料を探す。 〔平成26年度に行う活動〕図書や資料の分析とともに、平成24~25年度で主に注目した医療、宗教、福祉、教育、経済等の分野以外で、ユダヤ人難民社会の活動(例えば家族再会や異なる地域出身のグループ間の融和、中国人、日本人、欧米人など他の上海住民との良好な関係の形成・維持)が難民の生活再建にどのように影響したかを明らかにする。また、上海在住のセファルディ系、ロシア系ユダヤ人社会や海外のユダヤ人団体からの支援活動の効果にも目を向ける。 〔今後の全期間(平成25~26年度)を通じて行う活動〕研究代表者(阿部)がすでに作成した上海のユダヤ人難民1万4522人分のリストに含まれない難民を発見するとともに、すでにリストにある難民についても新たな情報を集め、総合的なデータベースの構築を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
○外国旅費:18万円。〔目的〕上海市図書館および上海市档案館(史料館)における1週間の資料収集調査。 ○設備備品費:12万円。〔目的〕上海のユダヤ人難民関係図書購入(30冊×平均4000円)。 ○計30万円
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Research Products
(2 results)