2013 Fiscal Year Research-status Report
上海のユダヤ人難民社会における生活再建に関する研究
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24520806
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
阿部 吉雄 九州大学, 言語文化研究科(研究院), 教授 (70231975)
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Keywords | 上海 / ユダヤ人 / 難民 / 生活再建 |
Research Abstract |
中国の上海には、ナチスドイツに追われた中欧・東欧系ユダヤ人1万7000人の難民社会が1938年~1949年存在した。本研究は、彼らが上海でいかにして生活再建に取り組んだかを明らかにする。平成25年度は、上海のユダヤ人難民社会が1939年に発行した新聞の記事および広告を手がかりに、コミュニティの創設期の様子を調査し以下のことを明らかにした。 1.新聞の記事から明らかになったこと:ユダヤ人難民たちは移住1年目にすでにユダヤ教を核とする共同体を形成し、上海市内3か所のシナゴーグで毎週礼拝を行い、また福祉活動や難民の就職支援を行っていた。一般の難民に対してユダヤ教の教義や伝統の紹介・解説を行い、ユダヤ性の再生を目指した。移住で教育が中断した青少年への支援とユダヤ教・ヘブライ語教育に力を入れ、その様子は難民たちを支援していた上海在住の他のユダヤ人社会に逆に影響を与えた。難民の出生、成人式、婚姻、離婚、死亡などをコミュニティが管理した。 2.新聞の広告から明らかになったこと:広告主の所在地は、難民の多くが居住した蘇州河以北の日本管理地区が3分の2、残りは蘇州河以南の英米租界とフランス租界が6分の1ずつであり、商売の軸足を難民社会に置く者と、上海の外国人社会に置く者に分かれていた。後になるほど、新規の広告(開業)は日本管理地区の割合が増え、ユダヤ人難民社会の存在感が増していることを示す。難民が持参した貴重品の買い取り業者や医師は共同租界やフランス租界であることが珍しくない。食品関係では日々の飲食は日本管理地区、食品製造はフランス租界という傾向が見られる。業種別では、医療関係18.9%、食品関係18.6%、貴重品買い取り12.2%の3分野が最も多く、難民社会内部における需要とともに、難民たちが上海租界の経済活動や社会体制とどのような形で接点を持ち始めていたかを表している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、ナチスドイツに追われた1万7000人の中欧・東欧系ユダヤ人難民が、ヨーロッパとは文化、習慣、言語、気候などが大きく異なる上海において行った生活再建の様子を解明することである。 初年度である平成24年度は、上海でユダヤ人難民たちが発行した新聞を手がかかりにして、1)天候や衛生状態がヨーロッパと大きく異なる上海で難民たちがさらされた病気、特に伝染病に対する難民医師たちの取り組みおよび一般の難民への啓発活動と、2)ユダヤ教を核とする難民たちの自治組織「上海ユダヤ教区」が形成された様子を明らかにした。 平成25年度は、上海ユダヤ教区が1939年に発行した教区新聞の記事および広告を分析し、上海への移住1年目に1)難民社会がユダヤ教というアイデンティティを軸に生活再建を目指したこと、2)業種の性格により難民社会を基盤に商売をする者と、上海の外国人社会への経済的参入を試みた者に分かれたことを裏付けた。 平成24・25年度に上海市図書館ならびに上海市档案館(史料館)で行った調査により、上海のユダヤ人難民に関連する多くの文献や資料を発見した。また、最近出版された難民たちのメモワールも多数購入した。それらの分析は順調に進行しており、平成24・25年度に行った研究成果はその一部をまとめたものである。 以上のことから、3年計画の3分の2が経過した段階として十分な成果を上げていると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度の平成26年度は、平成24年度および25年度の研究成果をさらに前進させるとともに、平成24年度および25年度に収集しまだ論文等にまとめていない資料の分析を行い、本研究計画のまとめを行う。 具体的には、 1)1940年と1941年に行われたユダヤ人難民の自治組織の選挙、 2)1939年~1940年の医療活動、 3)1940年および1941年の難民新聞の記事と広告 の3点に集中し、太平洋戦争開始以前のユダヤ人難民社会における生活再建の営みの全体像を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の計画を遂行するのに必要な支出を行った結果、少額(891円)の未使用金が残った。 平成26年度の計画を遂行するため、特に書籍購入に使用する。
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Research Products
(3 results)