2012 Fiscal Year Research-status Report
中世盛期スペイン東部における「辺境」と入植運動の空間編成論的研究
Project/Area Number |
24520822
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
足立 孝 広島大学, 文学研究科, 准教授 (90377763)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 中世ヨーロッパ / スペイン / 辺境 / 征服・入植運動 / 定住形態 / 空間組織 / 封建制 |
Research Abstract |
本研究は、ヨーロッパの拡大期に相当する11世紀から13世紀までを時間的枠組みとし、まさしく拡大途上のヨーロッパに統合される典型的な「辺境」とみなされてきたイベリア半島スペイン東部における征服・入植運動の展開過程と、それにともなう新たな定住・空間組織の編成過程を形態生成論的に明らかにしようとするものである。本年度は以上の目的にそくして、次のような作業を行った。 (1)「辺境」をヨーロッパの「中心」からみてあくまでも特殊な空間とみなしてきた従来の学説を排し、むしろそれが「中心」とみなされてきた空間の諸特徴を先取りする空間であったことを明らかにするべく、スペイン東部に限らずイベリア半島全体の征服・入植過程がじつは城塞領域を軸とする新たな空間組織の組織的な編成過程であったことを、各地域の所見を比較・総合しつつ検討した。 (2)征服・入植運動を介して生成した新たな定住・空間組織を把握するうえで、城塞集落のみならず都市をも検討の枠内に組み込むべく、エブロ川北岸のウエスカの都市領域が1096年の征服後、13世紀後半にかけていかにして編成されたかを、約1,500点におよぶオリジナル文書を駆使して土地所有関係を綿密に再構築しながら実証的に明らかにした。 (3)エブロ川南岸の征服・入植運動の展開にともない形成された空間組織のあり方を実証的に明らかにするべく、とくに当該空間で城塞を核とする領域的な支配を展開したテンプル騎士団、聖ヨハネ騎士団、サンティアゴ騎士団、サント・セプルクロ騎士団の文書群を約3週間にわたりスペインに渡航し、現地の国立歴史文書館(マドリード)で蒐集・翻刻・分析した。 以上の研究成果は、(1)でイベリア半島全体の最新の研究動向を押さえたうえで、(2)および(3)でスペイン東部の個別地域における定住・空間組織を史料にそくして具体的かつ実証的に明らかにするというものであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、作業の円滑化・効率化を図るべく、スペイン東部を全体としてエブロ川流域、都市的集落の広大な属域の空間的比重が高い下アラゴン西部、騎士団領が卓越した同東部の3地域に分割して、それぞれの定住分布と空間編成を段階的かつ類型論的に検討するが、平成24年度はもっぱらエブロ川流域の定住分布と空間組織が分析される予定であった。その作業は文献史料を筆頭に、考古学知見、集落プラン、古地図などの蒐集と分析をつうじて遂行されたが、エブロ川流域にかんしては当初の計画以上の進捗状況を示しており、おおむね定住分布・空間組織の全体図を描き出すとともに、個別事例を切り口にその成果を公にすることができた。それゆえ、約3週間にわたるスペイン渡航に際しては、計画のうえでは次年度以降に着手することとなっていたエブロ川南岸から下アラゴンにかけての文献史料の蒐集を図るべく、まずもって国立歴史文書館(マドリード)に収蔵される膨大な騎士団文書(テンプル騎士団、聖ヨハネ騎士団、サンティアゴ騎士団、サント・セプルクロ騎士団)の蒐集・分析にも着手することができたのである。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究はもともと作業の効率化を図るべく、エブロ川の貫通するスペイン東部を、エブロ川流域、同河川以南の下アラゴン西部および同東部というように便宜上3地域に区分し、それぞれの定住・空間組織を文献史料にとどまらず、考古学知見、古地図、空撮写真などを駆使して検討したうえで全体の所見を総合するという方法を採用している。そうした方法は今後も基本的に変わらないが、これまでの研究の延長線上にあった第1の地域と異なり、以後着手される第2および第3の地域については文献史料の蒐集から始めなくてはならない。この点で、今年度のうちに騎士団文書を中心とする両地域の文献史料の蒐集に一部なりとも着手できたことはきわめて大きな意味をもっている。とはいえ、双方の地域には伝来する史料分布や従来の研究蓄積という点でやや大きな隔たりがあり、ことに複数の騎士団領が卓越した後者の地域には多数の文書が国立歴史文書館(マドリード)やアラゴン連合王国文書館(バルセローナ)に一括して収蔵されている一方、前者では個々の都市や教会にかならずしも多くない文書が分散して伝来するという状態となっている。それゆえ、当初は下アラゴン西部を網羅的に検討したうえで、同東部を同じく扱うというように順序立てた計画を構想していたが、研究の進捗に支障をきたすことがないように、定住分布データベースそのものの作成については、文献史料を筆頭とする各種諸資料の蒐集状況に応じて、同時進行とはいわないまでもときには本来の順序にとらわれずに作業を展開することもありうる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の作業は下アラゴン西部に関係する文献史料の蒐集と分析を軸に遂行される。その一部はすでに刊行されており、それらを当該地域にかんする発掘報告書、古地図、地籍図、空撮写真と併せて購入する経費として次年度研究費として交付が決定している900,000円のうちおおよそ2割に相当する180,000~200,000円を充てることとする。 とはいえ、伝来する文献史料の大半は結局のところ未刊行のままである。それゆえ、次年度もまたスペインに一定期間渡航し、国立歴史文書館(マドリード)、アラゴン連合王国文書館(バルセローナ)、カラタユーを筆頭とする市文書館に収蔵される文書群を網羅的に蒐集・分析しなくてはならない。この作業にはおおよそ1ヶ月のスペイン滞在が必要になるものと見込まれるので、研究費全体の約6割に相当する600,000円をこれに割り当てることとし、研究成果の一部を発表する際の旅費500,000円を併せて、合計650,000円を旅費として使用する予定である。 残る1割については「その他」とし、上記のとおり文献史料を筆頭とする各種諸資料の入手がフォトコピーというかたちで行われざるをえない場合の複写費としてとくに使用することにする。
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