2013 Fiscal Year Research-status Report
中世盛期スペイン東部における「辺境」と入植運動の空間編成論的研究
Project/Area Number |
24520822
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
足立 孝 広島大学, 文学研究科, 准教授 (90377763)
|
Keywords | 中世ヨーロッパ / スペイン / 辺境 / 征服・入植運動 / 定住形態 / 空間編成 / 封建制 |
Research Abstract |
本研究は、ヨーロッパの拡大期に相当する11世紀から13世紀までを時間的枠組みとし、まさしく拡大途上のヨーロッパに統合される典型的な「辺境」とみなされてきたイベリア半島東部における征服・入植運動の展開過程と、それにともなう新たな定住・空間編成の生成過程を形態生成論的に明らかにしようとするものである。本年度は、昨年度の研究成果をふまえて、次のような作業を行った。 (1)「辺境」をヨーロッパの「中心」からみて特殊な空間とみなしてきた従来の学説を排し、むしろそれが「中心」とみなされてきた空間の諸特徴を先取りする空間であったことを明らかにするべく、とくにエブロ川南岸東部の征服・入植運動の展開にともない形成された空間編成のあり方を実証的に明らかにした。具体的には、当該空間で城塞を核とする領域的な支配を展開した、テンプル騎士団、聖ヨハネ騎士団、カラトラーバ騎士団、サンティアゴ騎士団の文書群を、約3週間にわたりスペイン国立歴史文書館(マドリー)ならびにアラゴン連合王国文書館(バルセローナ)での現地調査をつうじて渉猟・分析し、それらを材料として個別専門研究を行った。 (2)征服・入植運動で生成した城塞集落の具体的な領主制的支配・経営形態を史料にそくして明らかにするため、とくにウエスカ司教座聖堂教会に例外的に伝来する『セサ城の書』と呼ばれる1276年から1277年にかけての会計記録を用いて、領主のまなざしからみた城塞集落の理想型を明らかにするとともに、そうした理想型と現実の社会経済的コンテクストとの矛盾をはらんだ関係にも光をあてた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は、作業の円滑化・効率化を図るべく、イベリア半島東部を全体としてエブロ川流域、都市的集落の広大な属域の空間的比重が高い下アラゴン西部、騎士団領が卓越した同東部の3地域に分割して、それぞれの定住分布と空間編成を類型論的に検討するものである。平成25年度は第2の地域の定住分布と空間編成が分析される予定であったが、その作業は文献史料を筆頭に、考古学知見、集落プラン、古地図などの蒐集・分析をつうじて遂行され、おおむねその全体図が描出されつつある。また、約3週間の現地調査をつうじて第3の地域についてもすでに作業がおよびつつあり、現段階で蒐集・分析された所見をもとに個別専門研究を準備することができたからである。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究はもともと作業の円滑化・効率化を図るべく、エブロ川の貫通するイベリア半島東部を、エブロ川流域、同河川以南の下アラゴン西部および東部というように便宜上3地域に区分し、それぞれの定住・空間編成を文献史料、考古学知見、古地図、空撮写真を駆使して領域横断的に検討したうえで、全体の所見を総合するという方法をとっている。ことに史料の刊行がなお進んでいない第2ならびに第3の地域については現地調査による以外ないが、もともと騎士団領が卓越した第3の地域では伝来史料が多少なりとも豊富でアクセスしやすく、こちらの作業も並行して行われている。それゆえ、当初は第1から第3へというように順序立てて検討する計画を構想していたが、現地での各種資料の蒐集・分析の進捗度に合わせて、上記東部の所見をまずもってまとめたうえで、同じく西部に作業の比重を移すものとする。
|