2012 Fiscal Year Research-status Report
近代フランス政治エリートの社会経済的属性分析-応用プロソポグラフィ分析アプローチ
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24520823
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小田中 直樹 東北大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (70233559)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 19世紀フランス史 |
Research Abstract |
第二帝制期フランスに関する先行研究を分析し、この時期の官選候補が代表的な「名望家」であり、またフランス農村部の「政治化」プロセスについて重要な役割を果たしたことを確認した。19世紀フランス史研究において「名望家」および「政治化」が論争の主題となってきたことを考えると、官選候補の性格を明らかにすることは当該時期フランス社会の特徴を捉えるうえで重要な貢献をなしうることがわかった。また、官選候補制度に関する先行研究であるLagoueyte[1991]およびVoilliot[2005]を検討し、官選候補の社会職業的属性という観点について、それらが資料的に十分な裏づけを有していないことを確認した。 Anceau[1999]などを利用し、当該時期の官選候補の社会職業的属性を抽出するとともに、統計処理することによって彼らの集団的な特徴を明らかにした。大まかにいえば、彼らは財産と知識を持つ存在、すなわち「名望家」だった。 国立中央文書館(パリ、フランス)において、官選候補に関する内務大臣次元および県知事次元の公文書について、資料調査を実施した。調査のおもな対象としたのは、具体的には、内務大臣あるいは内務省が作成し、大統領のちに皇帝(ナポレオン三世)あるいは内閣に提出した官選候補適格者名簿のための重要な資料となった、県知事が作成して内務大臣に提出した同適格者に関する報告書である。上記調査により、フランス本土87県中、71県分の報告書が発見できた。これら報告書に記載されている官選候補適格者の社会職業的属性を統計処理した。その結果、県知事が官選候補として求めていたのは、「名望家」のなかでも、地主よりは、むしろ商工業や自由専門職に携わる人々だったことが明らかになった。県知事の次元では、彼らこそ、新しい支配階層の中核をなすべき存在だったといえるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は県知事の次元における官選候補適格者の社会職業的属性を主要な研究対象としたが、国立中央文書館において、そのための資料である県知事報告書を71通発見することが出来た。それらのなかには、もっとも重要な先行研究たるLagoueyte[1991]が参照していないものが含まれている。 これら報告書を統計処理した結果、県知事の次元では官選候補として地主よりも商工業者・自由専門職が選好されていたことがわかったが、これは第二帝制の「新らしさ」を示している。すなわち、ともすれば「名望家支配」という言葉でくくられがちな19世紀フランス政治社会において、すくなくとも第二帝制期には、社会政治構造が変化しつつあり、また地方行政当局、そしておそらくは政府や皇帝も、変化を望んでいたといってよい。
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Strategy for Future Research Activity |
郡長をはじめとする郡・小郡・市村次元における行政当局担当者が持っていた官選候補適格者のイメージに接近するべく、大西部地方に属する25県のうち、すでに2009年に日本学術振興会特定国派遣研究者として訪問し、一種の予備調査として資料調査を実施したイル・エ・ヴィレヌ県を除く24県の県文書館において資料調査を実施する。調査の対象となるのは、おもに分類系列3M「選挙」および、県によっては1M「県行政一般」、4M「ポリス」、Z「郡庁」に所蔵されていると想定される、官選候補適格者をめぐる、県知事と郡長・治安判事のあいだの往復書簡(corrrespondance)と、後者の手になる報告書である。 分析の対象となりうる各県文書館所蔵資料を探索・閲覧・複写または撮影したうえで、これら資料から、郡長・治安判事が提示した官選候補適格者の社会経済的属性に関するデータを抽出し、データベース化する。 官選候補(政治エリート)の社会経済的属性と、各地域(各県)の地方社会における政治的傾向・土地制度・宗教的特性・社会的結合関係などの諸特徴の関連をモデル化する準備を開始する。具体的には、当該テーマに関連する研究書を収集し、先行諸モデルを検討するとともに、モデル構築の手法について確認する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度に引き続き、19世紀フランス政治エリートに求められた社会経済的属性に関する先行研究をチェックし、また当時の文献において彼らがどのようにイメージされたかを確認するべく「19世紀フランス地方社会史および官選候補関連図書」(40×1万円=40万円)を購入する。 また、大西部地方を構成する24県の文書館において、外国旅費(資料収集)(90万円)にもとづく資料調査を実施する。 さらに、この調査によって得られたデータを、資料整理用の事務補助者に対して謝金(10万円)を支払い、加工・データベース化する。
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