2012 Fiscal Year Research-status Report
アメリカ現代史における国民形成と貧困問題―人種境界との関係を中心に
Project/Area Number |
24520830
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
中野 耕太郎 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (00264789)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | アメリカ史 |
Research Abstract |
本研究は、1910年代から20年代のアメリカを主たる対象として、貧困問題と国民形成の相互関係を検証するものである。研究初年度の本年度は、主にヨーロッパ系の移民問題に関連したアメリカ知識人の貧困観、国民観に焦点を当てて研究を進めた。なかでも、当時シカゴ大学を拠点に移民コミュニティの大規模な社会調査を行ったEdith Abbottと、その妹で民間NPOの移民保護連盟や連邦の児童労働部門で活動したGrace Abbottの思想と行動に注目した。具体的には、シカゴ大学レーゲンシュテイン図書館特別コレクション所蔵のEdith & Grace Abbott Papers等を調査し、20世紀前半のリベラルな知識人が持った国民形成と貧困に関する認識を検証した。 また、移民の側で記憶される貧困体験とアメリカ社会への同化プロセスについても、初歩的な段階ながら検討をはじめた。具体的には、シカゴ歴史博物館所蔵のポーランド移民のオーラルヒストリー史料を渉猟し、移民一世世代の生活実態を調査した。 上記の一次史料調査に加えて、研究課題への方法論的アプローチを洗練するために、思想史的な研究をあわせて実施した。その一つの成果として、共著書『社会的なもののために』を刊行した。同書では、20世紀初頭のアメリカにおける、地域自治やコミュニティのあり方、そして自治体レベル、国家レベルでの経済規制や福祉政策の意味を考察した。当時、欧米の知識人の貧困認識が、個人の怠惰としての19世紀的な貧困から、社会問題としてのそれへと転換することを考えるなら、この時期のアメリカに立ち現れた「社会的なもの」を再検討することは、本研究の分析視角を精緻に構築するうえで有意義な作業だったと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3年計画の本科学研究費プロジェクトは、各年次に対応して3つの段階を経て完成を目指すものである。すなわち、20世紀初頭のアメリカ知識人が展開した、移民問題や貧困に関する知的活動を分析する第一段階、黒人団体や移民教区組織などマイノリティ自身が行った反貧困運動を検証する第2段階、そして、地方レベル、連邦レベルでの福祉行政と人種隔離・ゾーニングの歴史的な形成過程を考察する第3段階である。本年度の研究は、この第一段階であるアメリカ知識人における新しい貧困観、20世紀的な国民観の形成過程について、ある程度具体的な検討を加えることができ、それに加えて、第2段階の課題の一部である移民の側の意識に関する調査にも着手することができた。おおむね順調に進展していると自己評価する所以である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の第2年次となる平成25年度は、非白人のアメリカ人と移民から見たアメリカの貧困および国民化の問題を検討していく。主として、都市に住む黒人の改善団体であるUrban Leagueの運動を反貧困・社会包摂の観点から再検討するとともに、アイルランド系およびポーランド系等、カトリックのヨーロッパ移民集団にも注目し、彼らが展開した相互扶助活動の意味を考察する。また、本年度実施した同時代の社会学者や社会事業家に関する研究も継続して行っていく。 第3年次(最終年)の平成26年度は、これまでの2年間に及ぶ研究成果をふまえて、貧困問題をめぐる、知識人とマイノリティの思想と実践が、いかに立法や行政における社会・福祉施策に結実したか、またそのことが、移民の同化と人種分離を同時に起動した20世紀のアメリカ国民社会の展開にどう結びついていたのかを詳細に検証する。なお、第2年次、第3年次ともアメリカでの実地調査を計画している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
第一に北部都市の移民問題と人種隔離に関する内外の研究文献を系統的に収集し、最先端の研究状況を検討する。また、東京大学アメリカ太平洋地域研究センター所蔵の人種関連資料を閲覧して、20世紀前半の貧困と人種問題に関する社会史の概要を把握する。研究文献の購入費、東京での調査費用として、研究費を使用する計画である。 この基礎的作業をふまえて、第二に、シカゴ市とワシントンDCにおいて文書調査を行う予定である。具体的には、黒人の北部都市での改善運動である都市連盟(Urban League)の資料を、①Chicago Urban League Papers(イリノイ大学シカゴ校図書館文書コレクション)と、②National Urban League Papers(ワシントンDC、連邦議会図書館)の双方について検証する。あわせて、ヨーロッパ系移民を主体とした教会の救貧活動にも注目し、George W. Mundelein Papers(シカゴ枢機卿管区文書館)の調査を行う。当時、移民の自助的な反貧困運動は、教区と枢機卿区のリソースを用いて行われたが、同文書の調査を通じてその実態を解明する。アメリカでの滞在期間はおおむね3週間を予定しており、旅費、滞在費として研究費を使用する計画である。
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Research Products
(1 results)