2013 Fiscal Year Research-status Report
アメリカ現代史における国民形成と貧困問題―人種境界との関係を中心に
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24520830
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
中野 耕太郎 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (00264789)
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Keywords | アメリカ史 |
Research Abstract |
本研究は、1910年代から20年代のアメリカを主たる対象として、貧困問題と国民形成の相互関係を検証するものである。研究2年目の本年度は、第一次大戦前後の時期に、児童福祉政策を立案した都市改革者の活動と、多くの貧困層を抱える北部都市の黒人団体の反貧困運動に焦点を当てて研究を進めた。 具体的には、第一に、戦時下の労働省に児童局を創設し、また戦後、母子衛生法の成立に貢献するJulia Lathropの活動を分析した。イリノイ大学シカゴ校Richard J. Daley Library Special Collection所蔵のLathrop Collectionを詳細に検証し、その福祉運動の背景となるLathropの社会観、人間観を考察した。第二に、同じくイリノイ大学図書館Special Collection所蔵の、Chicago Urban Leagueという黒人団体の文書史料を調査し、黒人の側から試みられた北部産業社会への適応と貧困対策について検証をすすめた。 上記の一次史料調査に加えて、第一次世界大戦期の国民形成について、より包括的にその歴史的文脈を明確化すべく、単著『戦争のるつぼ―第一次世界大戦とアメリカニズム』を上梓した。また、国民形成の問題を思想史的により一般化する努力も続け、第47回アメリカ学会年次大会では、シンポジウム「平等概念の多様性」のパネリストとして、「革新主義と社会的な平等」と題する報告を行った。この報告では、「見苦しくない生活水準を享受する権利」といった社会的平等の思想が、しばしば20世紀特有のナショナリズムの言論と混ざり合っていった事実を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3年計画の本科学研究費プロジェクトは、各年次に対応して3つの段階を経て完成を目指すものである。すなわち、20世紀初頭のアメリカ知識人による対移民、対貧困活動を分析する第1段階、黒人団体等のマイノリティの側が行った反貧困運動を考察する第2段階、そして、連邦レベルの福祉政策の形成を検討する第3段階である。本年度の研究は、第2段階のマイノリティ自身による、貧困対策と国民化の運動について、ある程度具体的な検討を加えることができ、それに加えて、第1段階と第3段階の双方に関わる、児童福祉運動の指導者の思想と行動を検証することができた。3年計画の研究はおおむね順調に進展していると自己評価する所以である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究を進めていくうえで必要に応じて研究費を執行したため当初の見込み額と執行額は異なったが、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め、当初の予定通り計画を進めていく。すなわち、本研究の第3年次となる平成26年度は、地方レベル、連邦レベルでの福祉行政と人種隔離・ゾーニングの展開の分析、特に1920年代のイリノイ州母子年金制度と連邦の母子衛生法(1921年)、都市区画法(1923年)の成立過程に注目し、上記の思想、運動がいかに政治、行政に反映したかを考察する。 具体的には、シカゴ大学レーゲンシュテイン図書館が所蔵するEdna D. Bullock, Selected Articles on Mothers' Pensionの史料を渉猟するとともに、ワシントンDCにおいて、母子衛生法と都市区画法に関する議会史料を収集する予定である。あわせて、第二段階のマイノリティ研究の補足的作業として、同じくワシントンDCの議会図書館で、全国的な黒人団体、National Urban League Papersを検証する。 この第3年次は、研究最終年度でもあるので、これまでの2年間の研究成果をふまえて、貧困問題をめぐる知識人とマイノリティの思想と実践が、いかに立法や行政としての社会・福祉施策に結実したか、またそのことが移民の同化と人種分離を同時に起動した20世紀のアメリカ国民国家の展開とどう結びついているかを委細に検討したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究を進めていくうえで必要に応じて研究費を執行したため、執行額が当初の見込み額を下回った。 次年度の研究推進のための物品(関連する研究図書、研究資料)の購入に充当する予定である。
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Research Products
(4 results)