2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24520831
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
栗原 麻子 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (00289125)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
師尾 晶子 千葉商科大学, 商経学部, 教授 (10296329)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 国際研究者交流(イギリス) / 互酬性 / リュクルゴス / アテナイ / 法廷弁論 |
Research Abstract |
① リュクルゴス時代に関する個人的な研究としては、ヒュペレイデスとリュクルゴスのエイサンゲリアをめぐる比較検討を通じて、両者のもつ「コイノニア」概念の共通点について検討を進めた。 ② リュクルゴスの政策を把握するためにはその前後の時代との比較検討とともに、彼をとりまく政治状況を見直し、相対化する必要がある。そのため具体的には、アポロドロス『ネアイラ弾劾』の翻訳のかたわら、その公概念について検討した。 ③ リュクルゴスの互酬的共同体意識を検討するためのもうひとつの手がかりとして、彼の弁論である『レオクラテス弾劾』の読解を進めた。その際、陪審員による感情的な哀れみや報復timoreinといった共同体的要素を、ときに支配者としてふるまったといわれるリュクルゴスがどのように受け止めていたのか、ということが問題となる。これについて4月にエクセター大学で行われたClassical Association大会において報告をおこない、その成果を英文誌に投稿すべく必要な修正を加えた。 (2) 共同研究 ① 研究費を利用して、リュクルゴス時代を碑文・弁論両方から捉えなおすための共同研究会を立ち上げ、すでに2回の研究会をおこなった。第1回(11月29日)では、参加者各自が、リュクルゴス時代についての概括的な報告をおこない、研究状況についての情報の共有をおこなった。なお参加者は、代表者にくわえて研究分担者師尾晶子氏、研究協力者橋本資久氏、上野愼也氏。第2回(3月31日)には、研究協力者である橋本資久氏によるプロクセニア顕彰についての報告および、同中尾恭三氏による、ベンディス祭祀碑文の再検討の2本の報告を得ることができた。なお参加者として上述諸氏に加え研究協力者篠原道法氏および、オブザーバーとして鷲田睦朗氏を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①Classical Association (Manchester)において、法廷におけるカリス(恩恵)と刑罰の関係について学会 報告をおこなった。 ②リュクルゴスの弁論におけるカリスと刑罰の関係について、その原稿の半分についてはJASCA誌に投稿が内定しており、原稿の最終調整段階にある。「市民的互酬性とマスキュリニティ」についてはこのなかに包摂する結果となった。 ③リュクルゴスの市民共同体意識を示す事例として、一般市民にたいする弾劾裁判についてまとめる予定であったが、6月の研究会で報告予定であり、着実に準備を進めつつある。 ④共同研究者・研究協力者と順調に研究会を開催することができた。 ⑤ アポロドロス『ネアイラ弾劾』の訳および訳注を作成中である。
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Strategy for Future Research Activity |
宗教儀礼における互酬的構造のみならず、アテナイの公共空間は、民主制の完成期である紀元前5世紀半ば以降ヘレニズム初期である前4世紀末を通じて、構成員のあいだの互酬性のもとに成立していた。公共奉仕や寄付(エピドシス)、市民・非市民にたいする顕彰が、おそらくこの間にあらたに導入され運用されていたことは、互酬的な制度が、衰退するどころかむしろ民主制の根幹に位置づけられ制度化されたことを示唆している。とりわけリュクルゴス時代は、顕彰行為が盛んであった。リュクルゴス自身、熱心に国家に対する貢献者を顕彰している。リュクルゴスはまた自発的な寄付(エピドシス)による市民の貢献を通常の公共奉仕よりも評価していた。リュクルゴスの法廷戦略における互酬性的要素についての研究成果を受け、碑文史料にも対象を広げ、エピドシス(寄付)と顕彰、エフェボス制度の創設といったリュクルゴスの市民共同体再建策について検討を進めたい。そのために、 ①古典期アテナイからヘレニズムにかけての顕彰政策をめぐる研究史を整理する(研究協力者の助力のもとにおこなう)。とくに非アテナイ人として市民権賦与を受けた、銀行家パシオンとその子アポロドロスを出発点として、文献と碑文の両面から前4世紀の顕彰と国家による恩恵行為についての全体像を把握する。 ②リュクルゴスの顕彰政策および、寄付にもとづく建設政策について、リュクルゴスの政策を可視的に理解する。 ③なお本年度末もしくは26年度に、研究分担者・協力者とともにリュクルゴス時代についての研究集会を開催する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1)ロンドンのロイヤル・ホロウェイー校のレーン・ルビンシュタイン教授と研究集会についての打ち合わせをおこなうために、旅費の一部を使用する。 (2)研究分担者・協力者との研究会のための旅費の一部を使用する。 (3)文献の収集のために物品費を使用する。 (4)年度末の研究集会のために海外からの招聘旅費として旅費の一部を使用する。
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Research Products
(6 results)