2013 Fiscal Year Research-status Report
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24520831
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
栗原 麻子 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (00289125)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
師尾 晶子 千葉商科大学, 商経学部, 教授 (10296329)
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Keywords | リュクルゴス / 国際研究者交流 / イギリス / アメリカ合衆国 / エヴェルジェティズム / アテナイ / 民主制 / 法廷弁論 |
Research Abstract |
本年度は、ワークショップLycurgusin Transition: Old and New(2014.3.28-30,於京都・関西セミナーハウス)の準備のために、4月から5月にかけてオクスフォードで調査を、ロンドンでレネ・ルビンスタイン教授との研究打ち合わせをおこなった。また国内でも6月、10月、1月の3度にわたる準備会をおこない、研究分担者、協力者とともに報告のための研究会で研究報告・討論・打ち合わせをおこなった。ワークショップは、古典期からヘレニズム期の移行期としてのリュクルゴス時代の変化を、社会の深部から捉えようとするものであり、とりわけ次の点に関して集中的な議論がおこなわれた。第1に、報告者間で、カイロネイア後のアテナイが危機と疑念の渦巻く時代であったという共通の認識が確認された。第2に、アテナイ在住の外国人の視点について墓碑の検討がおこなわれた。第3に、外国との個人的関係について、プロクセニア顕彰をおこなうアテナイ市民側の視点この時代のアテナイにおける外国人との関係の変化が論じられた。第4に、この危機と市民団再生の時期において、互酬的な関係性が、法廷における復讐においても、市民や外国人にたいする顕彰行為においても重要視されていたことが指摘された。第5に、その顕彰行為のありかたや対象の変化、危機に応じた碑文慣行の変化が論じられた。これらの議論を通じて、時代の転換点は、カイロネイアの戦いという政治史上の区分ではなく社会史的には前4世紀中葉であったであろうこと、テーバイ陥落後の危機の時代をとらえるためには前403年の回復民主制期との比較が今後課題となることが確認された。いくつかの積み残しの要素ーとりわけ過去の栄光のリバイバルの問題や、エフェボス制度の変革,宗教政策ーについても、報告者間でさらに議論を進め、ワークショップの成果の公開に向けて今後の協力が確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①碑文史料と文献史料の接合という当初の目的は、26年度最大の事業であったワークショップにおいて、分担者や研究協力者と共同で実現された。その過程で、助言等に留まらず、ワークショップを見据えてそれぞれの専門領域について報告会を重ねることとなり、当初の交付申請書と比較すると、共同研究としての比重が大きくなっている。研究協力者がその意図を組んで研究を進めてくれたこともあり、またワークショップでの討論がその点を踏まえておこなわれたこともあり、全体としては、より専門的な知見に基づいたかたちでの総合を目指すことができていると考える。 ②研究代表者個人も、エヴェルジェティズムの進展について、銀行家パシオンの事例を足がかりに、思考をふかめることができた。しかし関連する顕彰碑文の研究史等についての理解がいまだ不十分なものにとどまっているため、さらなる調査・研究が必要となる。 ③25年度中に公刊を予定していた内容については、Pity and Charis in Classical Athenian Court, JASCA, 2014でその一部を公刊したほか,ワークショップおよび学会における口頭報告をおこなった。エイサンゲリア制度についてはそれらの一部として言及した。 ④リュクルゴスの土木事業について、文献調査をおこなった。
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Strategy for Future Research Activity |
①成果の公表について、現在海外出版を研究協力者等と協議中であり、その実現が第1の課題となる。そのために4月現在、ワークショップでの報告をそれぞれ改稿するほか、書籍編集のために、議論をより充実させるための執筆者陣について調整中であり、ワークショップ参加者との協力のもと、8月には出版企画書を作成して企画を実現させたい。原稿提出は1月の予定。そのために8月に渡英を予定している。また、必要に応じて研究分担者・協力者・連携研究者との協議をおこなう。 ②上記が実現できない場合には、雑誌の特集号等、ほかのかたちでの公開を目指すことになる。そのための費用として研究費の一部を留保する。 ③個人の研究としては、いわば「長期のリュクルゴス時代」をみるための重要な資料である『ネアイラ弾劾』の翻訳を完成させ、その解説執筆過程で、『弾劾』執筆者アポロドロスとその父パシオンをめぐる顕彰行為についてまとめたい。 ④互酬性と刑罰をめぐって、ギリシア史の枠内だけではなく、より幅広くローマ史研究者との対話も可能とするべく、両者のあいだの問題意識の際についても、言語化し、6月までに日本語の論稿を完成する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ワークショップのための研究者招聘に際して、招聘研究者の都合により次年度に渡る滞在の経費が生じたため、25年度中の出費を予定していた経費が、次年度にずれこんだ。また招聘のための航空券代,会場費などワークショップのための経費が想定よりも穏当な金額に収まり、ワークショップ開催費用が予定した程には必要なかったため。 ワークショップの事後処理の打ち合わせのために新たに8月に渡英する必要が生じていること、ワークショップから派生した出版計画のために必要に応じて米国あるいはアテナイにスカフーロ教授を訪問する可能性があるため、差額分はそのための旅費に充当する。
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