2014 Fiscal Year Research-status Report
中世ブリテン史における貨幣製造人の「世界」-C.973年~1279年-
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24520834
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
鶴島 博和 熊本大学, 教育学部, 教授 (20188642)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ペニー / 銭貨 / 銀貨 / 銭貨製造人 / 銀 / 権力表象 / 帝国的基準通貨 / 更新制度 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)平成27年5月30日第65回日本西洋史学会において「ヨーロッパ形成期におけるイングランドと環海峡世界の『構造』と展開」と題する公開講演を行った。そこでは、イングランドの統合王国の特殊性が、良質の銀貨を、継続的に発行したこと。当時の水準では独占といってよいレベルでイングランド国内で王の銀貨のみが、流通し、海外においても、当時のヨーロッパの基準通貨の一つとしての、ドイツ、とくにケルンのペニヒ貨と競合し、一種の帝国的通貨として機能していたこと、を明らかにした。 (2)7月17日から8月6日までの海外出張では、ドイツケルンで貨幣関係の文献と史料を渉猟した。ロンドンでは、中世イングランドの貨幣史関係の史料と文献を渉猟した。 9月13日から15日まで、熊本県阿蘇郡高森町色見の奏文庫歴史研究所(奏山荘)において(3)第5回貨幣史研究会を開催し、全国から中世ヨーロッパ、ヴィザンツ、イスラーム、中国の貨幣史研究の専門家を招いて、報告会を行い、鶴島の研究を全ヨーロッパ、ユーラシア大陸の中に位置づけるための作業を行った。 (4)平成27年2月17日から3月4日のイングランド出張では、とくにケント州の海浜都市の景観調査を行い、貨幣製造拠点の同定をおこなった。帰国してすぐの3月7日には第6回貨幣史研究会を熊本県益城町奏文庫歴史研究所(上記山荘とともに鶴島の私的研究所ではあるが、ロンドン大学の歴史研究所と連携して東アジアブリテン史学会を運営している)でおこない、知見を広めた。 (5)上記公開講演の原稿を大幅に加筆修正して、鶴島博和「ヨーロッパ形成期におけるイングランドと環海峡世界の『構造』と展開」『史苑』75-2(21015年3月)pp. 5-108として成果をまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)従来の貨幣史研究が、ヌミスマティストの多少とも専門的すぎる、銭貨(コイン)そのものの分析に偏っていた研究方法を、王権の権威と権力、内国的な局地的市場と国際的な遠隔地交易圏を結ぶ繋ぎの環としての銭貨(=高品位と安定した量目をもつ故に)として構造的機能論の方法を導入しこと。それによって、王権の統制のもとに、その作り手が、移動しつつも、拠点をもつ地域の名望家として、銭貨自体の品位と量目を保証していたことを明らかにし、イングランドの国制と社会構造のなかでの銭貨と貨幣制度がもっていた意義を明らかにした点は、貨幣史研究に新しい地平を築く可能性を開いていると思われ、研究がそれなりに順調に進行していると判断できてる。とくに名望家=ジェントリが、これまで議会ジェントリの視点で語られてきたのを、流通の保障というあらたな信用の維持という観点を導入できたことは一定の成果と判断できる。 (2)問題は、研究の対象範囲が広すぎて、予定よりも進捗が遅れていることである。イングラン全体のまとまった成果をだす計画ではあるが、イングランド全域カバーしきれていないという状況と、銭貨(貨幣)のもつ流通という側面から、イングランドでは完結しない、広域的、ヨーロッパ、あるいはユーラシア全域を視野にいれた研究方向が要請されているという状況からは、さらなる研究の拡大も必要としている状況である。この点は今後の研究の推進方策と連動させていくべき問題でもある。
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Strategy for Future Research Activity |
【現在までの研究の達成度】でも述べたように、イングランドという、北西ヨーロッパにおける、安定した良質なスターリング貨の供給地おける、銭貨(コイン)とその製造人の世界を研究していくと、その先にあるヨーロッパ、イスラームや中国といったほぼユーラシア全域に視野を広げて、当時の貨幣の製造、流通、内実、信用保証といった視点から、よりダイナミックスな方向でこの課題に接近しなくてはならないことがわかってくる。こうした研究推進上の方策は、当初から予想されていたことで、そのために平成24年から貨幣史研究会をつくり、ヨーロッパのみならずユーラシア大陸のヨーロッパ中世期に相当する時期の貨幣について造詣をもつ研究者を招集してこれまで計7回の研究会を開催してきた。今後、この科研の成果をまとめるとともに、この研究会をベースにして新たな、広領域にわたる前近代の貨幣史研究をおこなっていく予定である。それは、最終的には、資本主義における「貨幣の神話」を解明する手立てを与えることにつながるだろう。その際には方法論的には、(1)権威と権力、流通と交通、そして実際に銭貨を日常で使用した社会の実態、を下にいれて、その構造と展開を議論する必要がある。(2)地理的な対象範囲としては、ヨーロッパ(東欧)を中心に、ビザンツ、イスラーム、中国、インドとして、時期的には、6世紀から、15世紀まで一応の範囲とする。(3)現在この課題を推進するために、海外、とくにイングランドの研究集団との合同プロジェクトを行うために折衝に入っている。
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Research Products
(4 results)