2013 Fiscal Year Research-status Report
ハンザ都市ブレーメンの変容―ハンザの厄介者から一流のハンザ都市へ
Project/Area Number |
24520836
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Research Institution | University of Nagasaki |
Principal Investigator |
谷澤 毅 長崎県立大学, 経済学部, 教授 (00288010)
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Keywords | ブレーメン / ハンザ / ドイツ / 通商路 |
Research Abstract |
ハンザのなかのブレーメン商業の展開という観点から、ハンザ衰退期の16・17世紀とハンザ消滅後の19世紀の双方の時代に関する考察を進め、平成25年度はハンザ衰退期のブレーメンとドイツの商業に関して二つの具体的な成果を挙げることができた。 一つは、16・17世紀のブレーメンの対ハンザ関係と商業の展開に関する考察である。ハンザ衰退期のブレーメンがそれまでとは異なりハンザと積極的にかかわるようになり、最終的にはハンザを支える三大都市の一つとして商業的にも躍進していった状況を確認することができた。ただし、「三番手」の都市としてほかの都市との関係が必ずしも良好ではなかった状況も見て取ることができた。これについては、「ハンザ衰退期におけるブレーメンの対ハンザ関係と商業」という論文にまとめ、筆者が編者の一人を務めた論文集(『地域と越境 - 「共生」の社会経済史』春風社)に収めてまもなく刊行される。 もう一つは、ブレーメンが位置するドイツの海域世界とのかかわりを商業面から検討したものである。19世紀にブレーメンは、まさしくドイツの主要港湾都市の一つとして発展する。そのドイツと海との繋がりをハンザ存続期にさかのぼって主な通商路が果たした役割とともに取り上げ、陸上国家として捉えられることが多いドイツとバルト海や北海との繋がりをハンザの存在を念頭に置きながら検討を加えた。これは「中世後期・近世のドイツの商業と北海・バルト海」というタイトルでまとまられ、この夏に共著(『北海とバルト海の世界』悠書館)に収めて刊行される予定である。 そのほか、19世紀のブレーメンの商業・貿易について対アジア関係、対米関係の双方から文献や資料の読み込み、ノートの作成を進めてきたが、その成果は平成26年にまとめられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は、①ハンザ衰退後のブレーメンの商業発展、②ハンザ衰退史観の再検討、③ハンザイメージの形成と変遷、以上の三つに力点を置いて研究を進める計画を立てた。 ①については、ハンザの衰退が明白となった16,17世紀のブレーメンの商業と対ハンザ関係について論文(「ハンザ衰退期におけるブレーメンの対ハンザ関係と商業」)にまとめることができた。また、ハンザ消滅後の19世紀のブレーメンの商業についても文献や資料の読み込みを進めた。②については、ハンザ衰退史観に関する新説、すなわち17世紀末以降、ハンザは消滅したのではなく性格や組織を変えて存続したとする学説を既存のハンザ衰退史観と照らし合わせながらサーベイし、上記の論文にその成果を取り入れることができた。③に関しては、ハンザ関係の文献だけでなく、近代ドイツ史に関する文献を広く収集し、読み込んでいくことによりドイツにおける歴史意識や民族意識の高まりを把握していくことに努めた。この分野に関してはまだ研究を手がけたばかりであり、論文にまとめるまで至ってないが、今年度も引き続きこの分野に関する考察を続けていく予定である。 昨年度は、そのほかにもハンザ存続期のドイツと海との繋がりを主な通商路が果たした役割とともに再検討し、陸上国家として捉えられることが多いドイツとバルト海や北海との繋がりをハンザの存在を念頭に置きながら考察する機会があった。これにより、ドイツ史さらにはヨーロッパ史のなかでブレーメンやハンザについて考察していくための視座を得ることができた。これは「中世後期・近世のドイツの商業と北海・バルト海」というタイトルでまとめられ、これから刊行される共著の一部をなす。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、三年間のなかの最終研究年度であるので、研究の全体的なとりまとめを念頭に置きながら、以下の点を中心に研究を進めていく予定である。 ①近代ブレーメンの商業発展: 19世紀を中心としたブレーメンの貿易に関しては、既に文献・資料をある程度そろえ、読み込みやノートの作成を進めている。この分野に関しては、中国をはじめとする東アジアならびにアメリカとの商業に関する交渉の過程や海運、貿易の実態について考察し、ブレーメンが近代ドイツの主要港の一つとして躍進していく過程を明らかにする。 ②移民の移出港としてのブレーメンの役割り: ブレーメンは北米を中心とした移民の移出港として重要だったといわれる。移民という側面からブレーメン港の整備や海運都市としての発展の姿を明らかにしていく。また、新たな港としてブレーマーハーフェンが建設されるが、この新港の建設と発展の過程も視野に入れて考察を進めていきたい。 ③ハンザイメージの形成と発展: これは昨年度と同じ研究課題である。この分野はこれまでの研究の蓄積が少なくアプローチが難しいということがわかってきたが、昨年構想した予定通り、まず19世紀にハンザ史学会が設立された背景から探っていくことが有効だろうと思われる。合わせて、ブレーメンのみならずハンブルクやリューベックが自都市をどの程度ハンザとして認識していたかを探っていくことも、「ハンザ神話」の形成過程を見ていく上で有効であろうと考えている。さしあたり、19世紀後半からナチス時代までの『ブレーメン年報』の同時代論文、記事からハンザに関する言説の内容と変化を探っていくことを考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、資料収集と現地調査のためにドイツ(ブレーメン、ハンブルク)に出張する予定であったが、勤務校より管理職(学生部長)があてがわれ、海外での長期の出張が難しい状況となり、実施ができなかった。それゆえ、その旅費を文献・資料の購入に当てたが、すべてを消化するまでには至らなかった。 以上が、次年度使用額が生じた理由である。 管理職としての業務は平成26年度も継続となるため、ドイツへの出張は、おそらく本年度も難しいと思われる。それゆえ、そのための経費は国内の短期の出張や文献の購入費に当て、国内で収集可能な資料の入手のために用いることにしたい。
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