2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24520840
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
松嶌 明男 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (20306210)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 礼拝の自由 / フランス近代 / フランス革命 / ナポレオン体制 / キリスト教 / 聖具の国有化 / 公共性 |
Research Abstract |
2012年度には、内外の研究者と交流を深めつつ議論を交わし、研究テーマに対する認識を深めた。焦点となったのが、ナポレオンの公認宗教体制の下で保障された「礼拝の自由」である。その第二要素、特に礼拝の公共性(公的礼拝を行う権利)が、現在のフランス共和国が敷いている「ライシテ」体制の下では大きく制限されていることが、先行研究では軽視されている点に議論の再構築を行う進路を見出した。 続いて、2012年には二度の実地調査を行った。まず8月から9月にかけて、イル=ド=フランス地方で調査を実施した。まずパリでは、国立公文書館で未調査の史料を徹底して洗い出し、残すところなく参照した。続いて、国立公文書館の調査で重要性が判明したウール=エ=ロワール県での調査を行い、県立公文書館とシャルトル市立公文書館の調査を行った。前者は収蔵史料の質と量の両面で収穫が大きかったが、後者では市町村レベルで革命運動に対する聖職者の抵抗を抑圧していたことが分かる検閲文書を発見し、革命初期の聖職者による抵抗の弱さの一因が明らかになった。 2013年2月には、フランスのブルターニュ地方で実地調査を行った。当初の予定ではイル=エ=ヴィレーヌ県立公文書館(レンヌ)と、隣接するコート=ダルモール県の県立公文書館(サン=ブリュ)で調査を行った。ウール=エ=ロワール県やイル=エ=ヴィレーヌ県はいずれの資料が豊富であったが、それらと比較し、経済規模の格差が大きいコート=ダルモール県は残存する資料も少なく、革命期に行われた聖杯類の没収において、回数も総没収量も格段に少ないことが判明した。革命中に反革命運動が激烈だった地域も含まれるが、その影響は記録上は判然としない。 また、刊行予定のフランス革命史の論文集に、この一年間に深化させた「礼拝の自由」の議論をまとめた原稿を投稿し、この秋以降に刊行される予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画の達成度は、分野においてばらつきが見られる。 実地調査については、フランス現地の公文書館員の協力が得られたためく、予定よりも大きく進展している。まず、ウール=エ=ロワール県立公文書館とシャルトル市立公文書館の調査は計画されておらず、実地で追加したものである。また、コート=ダルモール県立公文書館の調査は、本来は2013年度に実施されるはずのものであった。このように、実地調査は順調に進展しており、それぞれの公文書館で重要な史料を発見するなど、大きな成果を挙げている。 それに対し、成果の発表の面では思うように進展せず、歯がゆい思いでいる。春に東京で開催されたフランス革命シンポジウムで、公共圏における礼拝の問題を中心に口頭報告を行い、問題提起と議論を行った。その後、それに加わった研究者らと交流を深めながら、近代フランスにおける公的礼拝の問題の考察を進めた。その成果をまとめた論文がこの秋に刊行予定の論文集に掲載されることが決まったことが、現状、唯一の活字化された業績になっている。この論文は研究を進める上で必要なものであったが、研究の基盤である礼拝の自由のとらえ方にかんする理論的な議論に時間と労力を費やしてしまい、未利用の手稿史料の分析に依拠した実証研究を進められなかった。 また、研究を下支えする日常生活が安定しなかった影響も大きい。2012年春の北海道大学への転職は研究計画立案時には予定されていなかった。さらに、それに付随する形で母を札幌の私の自宅に引き取ることになって、その引越に関連する用事に忙殺され、2012年末以降は研究の遂行にやや支障が出たことを申し訳なく思っている。
|
Strategy for Future Research Activity |
2013年度は自身が北大という新環境にも慣れつつあると同時に、母の引越も済んだので、研究に打ち込める環境が用意できるものと期待を高めている。 まず、2012年度は実地調査が順調に進んでおり、特にブルターニュ地方の調査はモルビアン県(ヴァンヌ)を残すのみとなっている。そのため、夏期ないし冬期の一度の渡航で十分に調査を済ませられると予想している。調べたところ、ヴァンヌの県立公文書館は市の中心街を離れた不便な場所にあるようで、それが実地で影響する不確定要素は残る。 また、入手済みの手稿史料の分析が遅延していることが、結果的に成果の発表が予定通りに進行していないことにも影響しているため、本年度は春から積極的に史料の分析を進め、それを実証論文の形で発表するところまで進めたい。 ただし、一般読者向けのナポレオン体制にかんする啓発書の執筆依頼を受けており、本研究計画の精華も取り入れるつもりである。ただし、その執筆を夏に行う必要があるため、史料の分析や研究論文の執筆に影響が出る可能性はある。 2014年度には、2012年春のフランス革命シンポジウムの成果を継承する形で、フランスの革命研究所(ヴィジル)でシンポジウムが予定されており、本研究計画の成果を取り入れた内容にする予定である。史料調査や論文の執筆と並行して、そこでの口頭報告に向けての準備にも着手する必要がある。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
|