2013 Fiscal Year Research-status Report
近世フランスからみた境界域としての英仏海峡ー仏英関係史の構築をめざして
Project/Area Number |
24520850
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
阿河 雄二郎 関西学院大学, 文学部, 教授 (80030188)
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Keywords | 英仏関係史 / 奴隷貿易の収益性 / 境界域 / 海港都市 / 貿易商人 / 沿岸島嶼部の世界 |
Research Abstract |
本研究は近世フランスを軸とした海洋世界史を企図しているが、2013年度は、いくつかの点で前進することができた。 そのひとつは、当該期フランスの海洋史の全体像について「近世フランスの海軍と社会」金澤周作編『海のイギリス史』(昭和堂、2013年)にまとめたことである。そこでは、典型的な海洋国家とされるイギリスと対比しつつ、フランス海港都市の対外発展のさま、それを支えた海軍の役割・実態や、海員徴募制や沿岸警備隊など軍制の仕組みをかなりの程度まで明らかにしえた。 もうひとつは、「英仏関係史」の構築を念頭に、すでに試論的に発表した「近世の英仏海峡」(『関西学院史学』40、2013年)の現場を実際に探訪したことで、2013年のチャネル諸島に続き、ブルターニュ半島先端の軍港ブレスト、さらに島嶼部のうち海の難所で知られるウェッサン島などを見学できた。ブレストでは海軍現役の担当係官から説明を受けたほか、近世ヨーロッパ交易史の専門家であるブレスト大学のプルシャス准教授から、近世ブルターニュの沿岸貿易研究の意味、フランスの奴隷貿易などについて貴重な助言をえた。小稿「バス=ブルターニュ地方の壮大な《囲い境界》」(『関学西洋史論集』37、2014年)はプルシャス准教授のご厚意で見学できた教会群の概要を紹介したものである。パリでは、恩師であるベルセ・パリ第4大学名誉教授から海洋史研究の方法、とりわけ史料収集面で地方の海洋博物館、県立文書館などでの利用の仕方を教示していただいた。この点は、2014年度で扱う予定の、とくに西海岸のナント、ラ・ロシェル、ボルドーでおこなわれた奴隷貿易の考察に生かしていきたい。 また、ボーヌ『幻想のジャンヌ・ダルク――中世の想像力と社会』(昭和堂、2014年)、ナシエ「16-18世紀のフランス社会――名誉のある社会」(『関西学院史学』41、2014年)を翻訳したことも追記する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は17-18世紀のいわゆる第二次英仏百年戦争期におけるフランスとイギリスの関係史を試みようとするもので、2012年度はその一端を「近世の英仏海峡」(『関西学院史学』40に所収)で論じることができた。 2013年度は、イギリスと比較しつつ、近世フランスの海洋世界史の概要を「近世フランスの海軍と社会」にまとめたことは一定の成果と考えている。これまであまり知られていなかったフランスの実態と、それがイギリスに匹敵する規模だったことを明らかにしたからである。また、英仏海峡の西端にあたる軍港ブレスト、ウェッサン島などを視察できたことも、現地の意味や役割をおさえる点で有意義だった。これで、東端のダンケルク、カレーをはじめ、中央部チャネル諸島など主要な場所を踏破したことになる。もちろんブレスト探訪に際しては、ブレスト大学のプルシャス准教授から多くの助言を得ることもできた。 英仏海峡を通過(往来)した人々の流れの把握、また、英仏海峡の「領有」をめぐる問題については、まだ取り組みが不十分であり、今後の課題としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
前述したように、近世におけるフランスとイギリスの関係を英仏海峡という境界域に着目しながら考察する点が本研究の目的であったが、残された課題のひとつは、英仏海峡を越えて往来する人々の流れを的確に把握することである。この点は、ロッシュの問題意識を踏襲するデュボスト、ミリヨなどの研究をフォローする必要があるだろう。とくにパリにやってくるイギリス人の様態についてである。 もうひとつは、本研究を進める過程で気づいたのだが、奴隷貿易は圧倒的な地位をイギリスが占めたにせよ、フランスの関わりもそれなりに大きく、英仏の代表的な海港都市がおこなった奴隷貿易を比較検討したいとの意識が高まった。ここでは、とくに18世紀末の奴隷貿易が国際化の度合いを増したことに注目し、ナント、ボルドーなどの奴隷貿易の背景に蠢くパリの金融業者や外国人商人などの動きを焦点に検討したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本計画を進めるにあたっては、基本的な図書の収集が必要である。この点では、やはり日本の諸大学に所蔵された図書では不十分であるとの印象をもった。けれども、必要度の高い近世の英仏関係史関係では、イギリス側の図書が意外と少なく、結果的に十分な図書購入ができなかった。その一方、次年度には、本研究を進める過程で気づいた新たな知見の調査のため、外国(フランス)出張を予定しているので、それに充当させた方がよいとも考え、次年度使用に充当させることにした。 次年度に繰り越される予算の使用について、そのひとつは、本年度が本研究の最終年にあたるので、できるだけ海洋史関係の図書の購入に充当させたいと思っている。もうひとつ、本年度では、外国出張(フランス)の費目で、英仏海峡のほか、地中海方面への出張を計画している。というのも、近世ヨーロッパ世界では、イギリスとフランスは大西洋海域のほか、地中海の覇権をめぐっても抗争を繰り広げたからで、各地に残る痕跡を辿ることで、英仏の対立的な局面をより深く検討したい。
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