2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24520870
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
高 正龍 立命館大学, 文学部, 教授 (40330005)
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Keywords | 梵字 / 韓国 / 真言 |
Research Abstract |
本研究は個人申請ではあるが、実質は東アジア梵字文化研究会のメンバーとの共同研究の形でおこなっている。月に一度の研究会を実施しながら、韓国の現地調査で得られた資料を検討し、『歴史考古学』誌上に特集号として報告をおこなっている。本年度は主として69号掲載用の平成23年、24年の2箇年度の報告の準備をおこなってきた。現在まで文章などの作成は終了しているが、編集にてまどり刊行にはいたっていない。 本年度の韓国の現地調査は、高を含め梵字研究会のメンバー5人、韓国側からは嚴基杓氏(檀国大学校教授)、金大煥氏(江南歴史文化研究所理事)、許一範氏(眞覚大学校教授)、許仙瑛氏(安山大学校教授)の4名が合流し、共同で調査を実施した。ソウル・京畿道南部と全羅北道・南道地域の金山寺、禅雲寺、双渓寺、大興寺、宝林寺、松広寺、仙巌寺の諸寺と、嘉会民画博物館、松巌美術館、仁川市立博物館、全北大学校博物館、国立羅州文化財研究所、韓国民族文化財研究院の梵字資料を調査した。このうち、嘉会民画博物館には膨大な陀羅尼・符籍の資料が所蔵されており、これらの資料の整理を通して陀羅尼の理解が深まるものと期待される。 韓国と日本の梵字を比較した場合、もっとも異なる点は、韓国の梵字が真言を表す場合が大多数であるのに対して、日本の梵字は種子を表すのが多い点である。韓国の梵字の意味については、六字大明王真言、破地獄真言、准提真言、淨法界真言、四方真言、三種悉地真言などがよく見られるが、意味がつかめない4字や3字の梵字がかなりの数存在する。これについて種子で理解しようとする見解が多く見られる。しかしながら、実相寺百丈庵香炉、MIHO MUSEUM舎利盒や奈良国立博物館香炉の検討を通して、om+真言からの任意の梵字で構成されるものが確実にあることが分かってきた。これを糸口に韓国梵字の理解を深めていくことが可能であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度後期より、韓国檀国大学校石宙善紀念博物館に外留中であり、集中的に梵字研究が可能になった。梵字のある遺物についての概要については把握できるようになってきた。また、概要でふれたように、意味がつかめなかった梵字についても次第に理解が深まってきている。韓国国内でも、銅鏡、瓦、仏画といった分野で梵字に関する論考が散見するようになってきており、筆者らがおこなってきた活動が芽を出し始めたという手応えも感じている。 しかしながら、陀羅尼のような紙にかかれた長文の梵字については、言語学的な梵字の素養が筆者に欠失しているため、容易に接近できてはいない。これを除外すれば、概ね順調に進展しているということができるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
韓国の梵字は日本とも中国とも異なる独自の字体をもっており、これを釈読することが本研究の発端であった。韓国梵字について調査と検討を重ねる中で、いくつかの真言を表している場合が多いことがわかり、パターンをつかむことができてきた。現在もなお、できの悪い梵字には奮闘する場面もあるが、真言が類推できれば、文字の推測が可能になってきた。これら梵字の異体字の整理を進め、まとめていくことができれば、今後の韓国梵字研究に裨益するところは大きいものと確信する。 紀年銘資料を中心として、このような梵字の字体の整理作業をより推進させていきたい。韓国梵字には(1)悉曇の知識があれば何とか読めるもの、(2)チベット仏教の影響を受けたランチャ、(3)朝鮮時代の独特な梵字の三つに大別することが可能で、これらが共存しながらも、その出現時期は(1)(2)(3)の順であらわれる。概ね、(1)が高麗時代後期、(2)が高麗時代末期、(3)が朝鮮時代からである。またそのなかでも多様性がある。したがって、これらは作業は文字の釈読だけでなく、梵字が刻まれた遺物の編年にも利用できると予想される。また、梵字全体が酷似する場合、同一工房、工人集団や工人系列を示すことが銅鍾の銘文の検討のなから分かってきており、梵字を施された遺物を研究する上で、梵字がより重要な属性になることが予測される。このような考古学的な視点より研究を推進していくことにしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
旅費が予定よりも少なかったため、使用額と差違が生じた。 旅費として8月に東アジア梵字文化研究会の韓国調査、10月以降の韓国内での調査を実施する。対象地域は慶尚南・北道を予定している。 人件費・謝金は梵字資料の整理作業、とくに梵字の比較する図版作成にあてる。 その他として複写費を計上する。
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