2013 Fiscal Year Research-status Report
「貯蔵」と「加工」から見る東アジア農耕導入期の野生植物食料利用の実態とその変遷
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24520876
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
細谷 葵 お茶の水女子大学, グローバル人材育成推進センター, 講師 (40455233)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 大 公益財団法人古代学協会, その他部局等, 客員研究員 (50296787)
楊 平 滋賀県立琵琶湖博物館, 研究部, 学芸員 (50470183)
渋谷 綾子 国立歴史民俗博物館, 研究部, 特任助教 (80593657)
岡内 三真 早稲田大学, 文学学術院, 名誉教授 (90093210)
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Keywords | 残存デンプン分析 / 植物遺体分析 / 多変量解析 / 野生植物利用 / 民族調査 / 東アジア / 縄文文化 / 中国長江下流域 |
Research Abstract |
平成25年度は、本科研費初年度の平成24年度における各調査地での予備調査を踏まえて、東アジア食文化における「貯蔵」「加工」に関する考古学・民族調査の本格的な実地調査を行う年度として位置づけており、その予定通りに実地調査を実施した。 東北地方の縄文遺跡調査においては、細谷、中村、渋谷、および研究協力者の瀬口で、7月と11月の2回、現地調査を行った。前年度の予備調査において、三内丸山遺跡、池内遺跡、是川中居遺跡の3遺跡に焦点を絞って調査するという方針を定めたので、この3遺跡を中心に、渋谷が人工遺物の残存デンプン粒分析、細谷が炭化植物遺存体の分析を進めた。中村、瀬口は現地での遺跡踏査や遺物実見にのっとり、3遺跡とその周辺遺跡について、住居址、貯蔵施設、石器組成(加工具)に関する多変量解析を実施した。 中国における新石器時代遺跡調査においては、岡内と研究協力者の久保田が3月に浙江省杭州市、紹興市、余姚市および北京市に渡航し、良渚遺跡、田螺山遺跡、跨湖橋遺跡の遺跡踏査に加え、これら各遺跡および浙江省文物考古研究所、紹興市博物館、中国社会科学院考古研究所において、加工と貯蔵に関する遺物の実見調査を行った。 中国における民族調査に関しては、細谷が7月に雲南省昆明植物学研究所を訪問し、民族植物学資料収集と研究交流を行った。また楊が7月に江蘇省/浙江省太湖周辺にて、伝統的な野生植物の利用、加工方法に関する民族調査を実施した。 研究成果の発信については、各々が複数の論文・学会発表を行うとともに、楊が責任者として進める滋賀県立琵琶湖博物館特別展示「魚米之郷」(2014年度実施予定)に本科研費が協賛者として参加し、図録などで成果発表する準備を進めた。平成26年度に出版予定である本科研費の報告書についても、章立てを決定し、それをガイドラインとして研究成果をまとめていく準備を整えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本科研費の全体計画において、平成25年度は東北地方の縄文遺跡および中国の新石器遺跡における現地調査、および中国における民族調査という、本科研費の本体となる実地調査を本格的に行う年度と位置づけていたが、その予定通りの活動を行うことができた。 東北地方の縄文遺跡においては、前年度の予備調査によって絞り込んだ3つの遺跡について、貯蔵遺構から採取した炭化植物遺体の分析、加工具と考えられる人工遺物から採取した残存デンプン粒の分析を、十分な段階まで完了することができた。これらの遺跡に関する報告書などの文献調査、また3遺跡とその周辺地域の貯蔵施設と加工具に関する多変量解析についても明確な指針を立て、成果まとめに向けて実施している。これらの調査に基づき、補足調査として一部遺跡の土器からの残存デンプン粒分析の必要が提示されたので、平成26年度に実施予定だが、25年度末に補足調査の内容を明確にした上で最終年度にそれを行うというのも、当初の研究計画通りである。 中国の新石器遺跡に関する現地調査も、稲作起源地である長江下流域の遺跡群について、予定通りの遺跡踏査と、貯蔵と加工に関わる人工遺物、植物遺存体の実見調査を実施できた。 中国における民族調査については、やはり平成24年度の予備調査を踏まえて、太湖周辺における伝統的な野生植物利用、加工に関する本格的な民族調査を行うことができた。加えて、平成24年度に予定しながら政治事情により実行できなかった昆明植物研究所の訪問も、今年度に実施できた。 計画以上の部分としては、研究分担者の楊が勤務先の博物館の特別展示を責任者として担当することになったため、その協賛として本科研費が参加でき、成果を広く発信できる機会が得られたことがある。平成26年度に計画する成果報告書についても、章立てなどの準備を万端に整え、成果発信の年である最終年度を迎えることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
本科研費の最終年度である平成26年度は、成果発信の年として位置づけている。成果発信の方法としては、口頭での研究発表、論文発表、および成果報告書の出版を予定する。 口頭での研究発表については、当初は日本において国際シンポジウムの開催を予定していたが、平成25年度の活動を進める中で研究組織内で十分に議論した結果、国際学会に参加して研究成果を発表する方が、発信としては効果的であるという結論に達した。平成26年度はちょうど、本科研費の成果発表にふさわしいSociety for East Asian Archaeology学会が開催される年であるため、細谷と渋谷が本学会(6月、於・モンゴル)に参加し、研究発表を行う。細谷は科研費の全体的な成果を、渋谷はその目玉となる残存デンプン粒分析の成果に焦点をおいた発表を実施する予定である。 論文発表については、本科研費の成果発表というだけでなく、東アジアの先史時代の食文化について、これまであまり行われてこなかった国際発信を行うという意識をもって、まず英語論文の出版を予定する。発表媒体としては、細谷が編集委員を務めるJournal of Japanese Archaeology、もしくは細谷がメンバーである人間文化研究機構連携研究「日本列島・アジア・太平洋地域における農耕と言語の拡散」プロジェクトの英語出版書籍のどちらか、もしくは両方を予定する。 成果報告書については、平成25年度中にすでに、研究組織内の打ち合わせによって章立てなどの構成を組み立て済みであり、その計画にのっとって各自の研究成果をまとめ、平成26年12月に原稿締め切り、平成27年2月に出版というスケジュールで進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度に東北地方・縄文遺跡にて行った現地調査については、11月の2回目の調査の時点で一度成果を取りまとめ、その上に立って、あともう一度の補足調査(土器からの残存デンプン粒採取・分析)の必要が明らかになった。この補足調査は、基本的に最終年度である平成26年度に行う予定ではあったが、調査者のスケジュールがまだわからない状況であり、場合によっては25年度中に行ってしまう可能性もあったので、とりあえずその調査費も見込んだ50万円を、26年度分予算から前倒しにしておいた。しかし、スケジュール調整の結果、この調査は当初の予定通り26年度に行うことになったので、その分の経費である371,417円(3名分の旅費および調査機材費)が次年度使用額となった。 平成25年度に行う可能性もあった、東北地方・縄文遺跡における補足調査を、やはり当初の計画に戻って平成26年度に行うことになったので、次年度使用額はその経費として使用する。 まず、研究代表者の細谷、および補足調査における土器の残存デンプン粒分析を行う研究分担者の渋谷と、縄文遺跡調査のコーディネーター的役割も果たしている研究分担者の中村の3名が、青森県・秋田県における3日間の調査におもむく旅費として、10万円×3名を計上する。加えて、残存デンプン分析に使用するガラス管等の消耗品の経費として、71,417円を計上する。
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Research Products
(20 results)