2013 Fiscal Year Research-status Report
地方都市再生に向けた歴史地区における公共空間の協育―地中海都市への地理的視座―
Project/Area Number |
24520895
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
竹中 克行 愛知県立大学, 外国語学部, 教授 (90305508)
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Keywords | 都市地理学 / 公共空間 / スペイン / 地中海ヨーロッパ |
Research Abstract |
平成25年度は,本研究課題の対象都市で唯一未着手であったファルセットで1回目の現地調査(5月)を行った.また,前年度に調査を開始したカンブリルスでは,2回目にあたる本格調査(12月)を実施した. 上記のうちファルセットについては,国際的に有名なタラゴナ県のワイン産地,プリウラット郡の中心都市であることに注目し,毎年5月上旬に開催されるワイン見本市に合わせて現地調査を行った.中心をなすフィールド調査では,①市民による歴史地区および周辺の空間利用の実態について,小売店舗・飲食店を中心として,見本市の開催と曜日・時間帯による変化の両面に目配りしながら明らかにする;②カタルーニャ自治州の「地区法」のもとで採択されたファルセット歴史地区の「地区プログラム」の実施過程とこれまでの成果について,主要アクターをなす行政,商業事業者,住民組織へのインタビューを通じて明らかにするという,大きく2つの課題に取り組んだ. カンブリルスでは,前年度の成果を下敷きとしつつ,公共空間の協育における商業・飲食業者のかかわりに焦点を当てて調査を深めた.そのために,業種,顧客層,営業時間,市民組織・同業者組織への参加,市民不動産の所有関係などに関する質問票を事前に準備し,バルセロナ大学で地理学を専攻する大学院生の協力を得て,対象地区の店舗に対する悉皆調査を試みた.前年度の調査において,観光化との関係で対照的な変化を経験した歴史地区と港地区の存在が明らかになったことをふまえ,事業者に対する今回の調査では,両地区からコンパクトな重点エリアを設定して,比較分析のためのデータ構築を進めた.夏季のリゾートへの特化が著しい港地区については,冬季に休業する店舗が少なくないため,それらについては積み残しとなったが,両地区を合わせて80あまりの事業者へのインタビュー調査を終えることができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に掲げた研究の目的で中核をなすのは,居住者・事業者を含む多様な主体がかかわり,使い込むことで歴史地区を都市の共有財産に育て上げる筋道を,各都市のおかれた地理的コンテキストと関連づけて明らかにすることである.この目的の達成に向けて,平成25年度には,第4の対象都市であるファルセットの現地調査を行うことで,市が市民・事業者との協働で進めてきた「地区プログラム」に関する4都市の調査・分析をおおむね完了することができた.研究成果は,『地理学報告』(愛知教育大学地理学会)掲載の学術論文として平成25年末に公開した. 歴史地区の空間利用についても,重要な発見があった.地中海岸または近傍に位置する他の3対象都市とは対照的に,内陸の中山間地域に位置するファルセットでは,寒さの厳しい冬季の屋外活動に対する制約が大きい.この意味で,秋の収穫祭ではなく,一種の春祭りをなすファルセットのワイン見本市にターゲットを定めたことは,季節とともに変化する地中海都市の屋外活動に対する理解を深めるうえで有益だった.その一方で,農村的性格の強い郡にあって人口わずか3千人の中心地にすぎないこの町では,都市的なサービス業の基盤が弱く,商業者組合などの組織も十分に発達していないという,必ずしも想定していなかった実態が明らかになった. ファルセット調査の結果をふまえると,買物・飲食を中心とする日常的な空間利用については,4都市のなかで中位の規模を有し,地元指向型の歴史地区と観光化が進んだ港地区を擁するカンブリルスで研究を深めるのが妥当であると判断された.そうした視点から実施したカンブリルスの2回目の調査では,2地区の対照性が改めて浮き彫りになると同時に,不動産所有やイベント参加の実態から,地元事業者の独立店舗とフランチャイズ店が公共空間へのかかわりを大きく異にしていることが判明した.
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度までに,対象4都市の調査が一巡したので,今後は,重点事項に関する個別都市の研究を深めるとともに,4都市相互の比較検討を進めることが課題となる. 前者については,当面の課題として,カンブリルス港地区に展開する商業・飲食業の事業者に対するインタビュー調査を完結させる必要がある.そのうえで,歴史地区の空間利用のうちイベント・観光の面について,タラゴナで毎年開催される野外歴史演劇の大イベント「タラコ・ビバ」,ファルセットにおける冬季の祭り(聖ブライ祭を予定していたが,前回調査で得た情報をもとに再検討中)に照準を定めたフィールド調査を行うことが,次の課題となる.これらの現地調査が終わると,歴史地区の空間利用に関する季節・時間軸を組み合わせたデータが一通り揃うので,カンブリルスの事例研究を核としつつ,分析結果の公表を進めていきたい. 後者については,近現代の地形図・市街図にもとづく都市発達過程の把握,地形や遮断要素を考慮に入れた歴史地区のアクセシビリティ分析,国勢調査区単位の人口分析による歴史地区の位置づけ,行政機関や文化・観光施設の配置からみた歴史地区の性格づけなどをもとに,歴史地区を取り巻く地理的コンテキストを統合的に分析する.これらの事項については,平成25年度までの研究ですでに必要なデータの過半が集まっているものの,4都市の比較分析はほぼ手つかずの状態である.今後,空間利用を中心テーマとする現地調査の機会を利用して不足しているデータを補完したうえで,GIS(地理情報システム)を援用した情報技術による分析とフィールド調査で得た定性的データを掛け合わせて分析を深めてゆく.これにより,各都市がおかれた地理的コンテキストの違いをいかしつつ,都市の内と外に向けた顔というべき歴史地区を市民の公共空間として育てる方途について,応用性の高い知見を導き出すことが最終的な目標である.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
対象4都市の比較分析に必要なデータの入手・整理のために,資料購入や研究補助要員の雇用を予定していたが,研究代表者単独で行う個別都市のフィールド調査を優先的に進めてきたために,支出額が予定を若干下回った. 対象4都市の比較分析に必要な地図・統計・写真・文献資料を購入するとともに,資料整理・加工のために大学院生を研究補助要員として雇用する予定である.また,分析を進める過程で,現在使用しているGIS(地理情報システム)の機能拡充のために,ソフトウェアを追加購入する必要が生じる可能性がある.
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