2015 Fiscal Year Research-status Report
地方都市再生に向けた歴史地区における公共空間の協育―地中海都市への地理的視座―
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24520895
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
竹中 克行 愛知県立大学, 外国語学部, 教授 (90305508)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 都市地理学 / 公共空間 / スペイン / 地中海ヨーロッパ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は,前年度の実施状況報告書で立てた年度方針にもとづき,優先課題として,対象都市の一つであるファルセットの冬の祭りをテーマとする現地調査に取り組んだ.併せて,地中海ヨーロッパをフィールドとする本研究課題から得られたアイデアをもとに,代表者の地元・名古屋の都市再生に向けた実践的研究を「空間コード研究」の名のもとで推進し,その成果を2月に専門書として公刊した. ファルセット調査は,聖ブライ祭(2月3日)の実施に合せて,1月30日~2月7日の日程で実施した.当初の研究計画では,中山間地域の小都市という設定のもとで,厳冬期の屋外空間利用のあり方に重点を置いて調査することを想定していたが,本研究課題のこれまでの成果をふまえて再検討し,公共空間の協育という中核テーマの周りで,やや視野を広げた調査を行うこととした.調査の結果,公共空間を都市計画制度に落とし込むために,街路や広場とならんで「施設(equipaments)」の概念が広く援用されていること,また「施設」の所有・管理者は公共団体には限られず,行政・民間セクターの共同所有・管理や行政財産の市民団体への長期貸与など,官民の間で多様な協働のあり方が工夫されていることが判明した.さらに,聖ブライ祭の参与観察からは,楽隊と歩調を合わせた町中の練り歩き,食べ物に祝福を授ける祭りらしい食べ歩き,意気投合した者が輪をつくる踊りなど,市民による屋外空間の共有が祭りの一瞬を享受し,楽しむ市民の感覚に浸透している様子がとらえられ,大きな収穫となった. 年度末には,イオニア大学(ギリシャ)で開催された国際ワークショップにおいて,港湾都市カンブリルスで蓄積したフィールド調査の成果を発表した(発表は英語).都市の界隈形成に果たす事業者の役割に焦点を当てた同報告の内容は,都市地理学の査読付き専門誌上にて公表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画では,平成26年度までに対象4都市の現地調査を基本的に終え,平成27年度は,積み残し課題に関する補足調査を行うにとどめる予定であった.しかし,26年度の実施状況報告書に記したように,研究課題の基本的な枠組みを維持し,着実に成果を出しつづけることを前提として,研究期間の後半については,現地調査を中心とする研究計画をやや遅らせる方向で進度調整を行った.最大の理由は,本研究課題から得られたアイデアを代表者の地元・名古屋で実践的研究に応用する機会に恵まれ,かつ,名古屋で進行中の都市再生計画との関係から成果を早急に具体化する必要に迫られたことにある.そうした事情に鑑み,27年度末には補助事業期間延長承認申請を行い,承認を受けた. とはいえ,「研究実績の概要」に記したように,27年度には,前年度末に計画したファルセットの2回目の調査を実行するとともに,国際ワークショップおよび専門査読誌上で本研究課題に関する研究成果の一部を公表している.この意味で,研究実施の遅れは26年度末時点で行った進度見直しの範囲に収まっており,補助事業期間延長後の最終年度にあたる28年度をもって,当初構想した研究計画の趣旨に沿いつつ,本研究課題に関わる調査・分析を実質的に終えることができる見込みである. 以上のように,本研究課題では研究期間の途中で進度を遅らせる調整を行ったものの,本研究課題の副産物として名古屋の都市再生にかかわる実践的研究を推進するという積極的選択を行ったがゆえの結果であり,研究戦略として正しかったと考えている.その成果は,『空間コードから共創する中川運河―「らしさ」のある都市づくり』(鹿島出版会)として,すでに28年2月に公刊されている.本研究課題とは形式上独立した研究成果とはいえ,本研究課題の社会的な意義を広める意味をもつ,重要な補完的成果と位置づけたい.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は平成28年度をもって研究期間満了となるため,年度末までに調査・分析を終えるとともに,可能なかぎり成果報告を進める必要がある.このことに鑑み,おおむね次の段取りに従って研究を推進していきたい. まず,タラゴナの野外演劇に関する大イベント,「タラコ・ビバ」に関する現地調査が積み残しとなっているため,これを5月後半に実施する.同調査では,現地協力者の手助けを得ながら,「タラコ・ビバ」の参与観察と併せて総合ディレクターなどへのインタビュー調査を行う予定である.古代の物語を現代の都市空間に翻訳し,表現者と鑑賞者が一体となって楽しむこのイベントは,古代の記憶に支えられたタラゴナという都市のアイデンティティを共有する意義を有する.また,舞台となる街路・広場や施設は,広い意味での公共空間としての性格を帯びる.そうした公共空間のあり方について,古代都市と現代都市を繋ぐ場所の記憶に焦点を当てながら考察したい. 現地調査が一通り終わると,研究成果の公表へと重点を移すことになる.現時点では,(1)27年2月に実施したファルセット調査にもとづく分析,(2)上記「タラコ・ビバ」の調査結果の分析,(3)本研究課題の総括に相当する対象4都市の比較考察の順で進めることを予定している.(1)については,官民協働による「施設(equipaments)」の活用を軸として,財政力が限られた小規模都市における公共空間の構築のあり方を問う内容とする見込みである.(2)に関しては,考古遺産を擁する歴史的環境のマネジメントに関する過去の調査結果を論文化していないので,これと併せて適切な成果公表の方法を決定する.(3)の最終的アウトプットの方法は未定であるが,日本建築家協会の機関誌に本研究課題にかかわる連載記事を寄稿する機会を得たので,これを梃子として成果公表を進め,次の研究課題の構想へと繋げてゆく.
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Causes of Carryover |
「現在までの進捗状況」の欄に記したように,当初の研究計画で平成26~27年度に組み込んでいた調査・研究のうち,タラゴナにおける「タラコ・ビバ」の調査および積み残し課題に関する補足調査を順延し,1年間の補助事業期間延長承認申請を行ったため.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
「今後の研究の推進方策」の欄に記したように,実施を順延した現地調査のうち,「タラコ・ビバ」の調査は平成28年5月に実施する.そのうえで,積み残し課題に関する補足調査を夏以降に実施する方向でスケジュールの調整を行っている.また,資料整理・加工のために,大学院生を研究補助要員として雇用する可能性がある.
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