2012 Fiscal Year Research-status Report
石干見の文化資源としての位置づけとそれをめぐる国際的研究ネットワークの構築
Project/Area Number |
24520902
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
田和 正孝 関西学院大学, 文学部, 教授 (30217210)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 石滬 / 台湾 |
Research Abstract |
研究の目的のひとつに、各地の石干見漁業の過去の状況および現在の状況を明らかにすることがある。本年度は、1910年代の台湾において石滬漁業が卓越した3地域の状況を、当時の漁業権資料(台湾総督府文書)を用いて整理し、分析した。その結果、石滬が共同で築造され、その後、所有権は親族を中心に継承される形態や個人が石滬を買収することによって所有権が特定の者に集中する形態がみられた地域、所有者の中には石滬を他人に貸与して賃貸料を得る者がいた地域もあったことが明らかとなった。石滬の所有株(持分)は基本的には男系親族が継承するが、世代をこえて1株が次世代の複数者に分割して継承される事例もあった。結果として、このような継承方法は、各人が石滬を利用する(巡滬)回数を減らす事態を招いた。郷内の石滬所有者がほとんど1基にかかわるのみで、いわば郷全体が石滬に平等にかかわっていたと考えられる形態と、1名がかなり多くの石滬の持分を所有していた形態があった。このような差は、当該地域が農業を主としているか否かに帰結すると考えた。以上のような研究は、本年度の研究計画として掲げた、石干見データベース作りの側面も有している。 2013年3月には、鹿児島県奄美大島にて、「九州~奄美~沖縄・海垣サミット in 奄美」が開催され、各地で石干見を保全・活用する諸団体が集まり情報を交換した。研究代表者は、「よみがえる伝統漁法石干見」と題して基調講演をおこない、文化遺産の保護・継承、観光振興や地域活性化の可能性と課題点について考察した。また、奄美大島内で石干見の遺構が現存する、龍郷町瀬留、屋入、奄美市笠利町手花部において、現地調査を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
目的に掲げた「石干見のデータベース作り」については、近代期の台湾における情報を整理することができた。また、沖縄県における石干見(垣)のデータベース作りについては2012年12月に沖縄県立図書館にて自治体史(誌)を検索した結果、かつて石干見があった地域が新たに判明した。情報は、現在、カード化の段階にあるが、まだ発表の段階にまで進んでいない。 「石干見保全を進める団体への聞き取り」については、大分県宇佐市長洲のアーバンデザイン会議、長崎県島原市のみんなでスクイをつくろう会をはじめ各地の保存団体と交流し、保全に関する実態と活動について情報を得ることができた。特に、研究代表者自身の「未調査地」であった奄美大島においてフィールド調査を実施し、石干見の保存状態を確認するとともに、自治会長をはじめ地元で石干見に関わる人びとから情報をかなり多く得ることができたのは、目的のひとつに掲げた「漁具の実態把握」に関しての大きな成果であった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度には、台湾およびフィリピンの石干見に関する現地調査を計画したい。台湾では苗栗県後龍鎮外埔里に残る石滬について、文化財保全を推進する現地の団体、さらには郷土史家から、石滬漁業の歴史的側面、所有関係、利用実態などについて情報を得たい。また、フィリピン調査は申請時に予定していたミクロネシア連邦ヤップ島の調査に代わるものとして計画した。中部ヴィサヤ諸島のギガンテ島に残る石干見の利用方法および経営方法について情報を得たい。 日本国内では、山口県周防灘沿岸部、熊本県の有明海・八代海周辺、長崎県雲仙市周辺などにおいてかつてみられた石干見漁業について情報の獲得を進める。 論文や報告としては、保全にかかわっている地域に対して研究代表者が進めてきた石干見研究を還元する方法について考察するとともに、各地域の石干見保全の状況ををまとめる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
台湾調査費用(5日間2回)の旅費として250千円、フィリピン調査(10日間)のとして旅費350千円を計上したい。フィリピン調査については、中部ヴィサヤ諸島のギガンテ島を予定しており、できれば現地に精通している若手研究家に同行を求める計画である。国内旅費としては、山口、西九州、八重山諸島の各調査を合わせて250千円を見込んでいる。
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