2013 Fiscal Year Research-status Report
現代中国社会の変容とその研究視座の変遷―宗族を通した検証
Project/Area Number |
24520907
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
瀬川 昌久 東北大学, 東北アジア研究センター, 教授 (00187832)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川口 幸大 東北大学, 文学研究科, 准教授 (60455235)
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Keywords | 現代中国 / 宗族 / 文化人類学 / 伝統文化の復興 / 文化資源 / 研究史 / 親密圏 / 公共的領域 |
Research Abstract |
本年度は、引き続き国内居住の主要な宗族研究者の参加を求め、研究会を2回実施するとともに、その成果をもとにした研究成果論文の執筆を行った。また、その出版のための科研費出版助成の申請も行った。 成果論文の内容は以下の通りである。序(瀬川昌久)、第1章・宗族研究史展望―20世紀初頭の「家族主義」から21世紀初頭の「宗族再生」まで(瀬川昌久)、第2章・ビン南地域における宗族復興の展開と今後の宗族研究(潘宏立)、第3章・「中国人研究者」の中国社会文化研究における宗族(聶莉莉)、第4章・宗族制度と宗族組織―湖北省の事例(秦兆雄)、第5章・宗族が作られているとき―福建省客家社会における人物呼称の事例から(小林宏至)、第6章・現代中国に息づく親族組織:水上居民の祖先祭祀からの分析(長沼さやか)、第7章・現代中国の「漁民」と宗族―広東省東部汕尾の事例から(稲澤努)、第8章・現代中国の移民と宗族に関する一考察―福建省福州市の事例から(兼城糸絵)、第9章・宗族の形成、変遷そして現在―広東省珠江デルタの一宗族の事例から(川口幸大)、あとがき(瀬川昌久)。 主要な論点は、宗族の存在様態を日常的・非組織的次元と儀礼的・組織的次元に分けて考えるべきこと、および宗族再生の事例はその歴史的正統性生成ツールとしての性格を地域社会が広く共有し実践していることを示しており、人々の「親密圏」には限定されないその潜在的機能の多様性や、そこに仮託される文化的意味の多様性についてあらためて確認されること、等である。これにより、宗族研究の最先端的な議論を総括する画期的な研究成果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究会を当初の計画のとおり2回実施したたことに加え、代表者、分担者、研究協力者が各自の調査事例に基づいて研究成果論文を執筆し、すべての原稿を回収した。そしてさらに、相互に原稿のチェック、批評を実施した。また、成果出版に向けた助成の申請も行った。 研究成果論文は、瀬川が宗族研究史の批判的整理を行うとともに、近年の宗族再生現象を踏まえたその研究意義について総括しているのをはじめ、福建省南部における宗族復興現象の近年の展開に着いての報告(潘宏立)、中国人研究者としての中国社会研究における宗族への着目の意義(聶莉莉)、湖北での組織的宗族復興の不在と日常的な社会関係の中の宗族の分析意義(秦兆雄)、福建省西部の事例による日常的親族呼称の中の宗族のプレゼンスの分析(小林宏至)、広東中部の水上居民の祖先祭祀事例にみる宗族創生への志向の分析(長沼さやか)、広東の漁民社会における宗族創生への動きとその限界についての考察(稲澤努)、福建省中部地域の移民母村での宗族再生・創生への実践の分析(兼城糸絵)、広東の歴史的次元からみた宗族形成とその背後にある歴史的正統性生成の原理の分析(川口幸大)等、質ならびに量において従来の同種の研究では比類をみない重要で画期的な成果を得ることができた。 以上のように、2年度目にもかかわらず既に研究成果のとりまとめは最終段階にさしかかっている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果のうち、瀬川による研究史整理ならびに近年の宗族再生現象を踏まえたその研究意義について総括、川口による歴史的次元からみた宗族形成とその背後にある歴史的正統性生成の原理の分析、稲澤努による広東の漁民社会における宗族創生への動きとその限界についての考察、兼城糸絵による福建省中部地域の移民母村での宗族再生・創生への実践の分析、そして小林宏至による福建省西部の事例による日常的親族呼称の中の宗族のプレゼンスの分析を、5月17日~18日に予定されている文化人類学会研究大会において分科会を組んで発表する予定となっている。その際には、東京大学名誉教授の末成道男氏にコメンテーターとしてコメントをいただくこととなっている。また、同分科会の打ち合わせのための会合を5月16日に東北大学東京分室にて開催する予定である。 そして、これらの発表成果とそれへの反応を研究成果にフィードバックし、最終的な成果出版物をブラッシュアップする。そのため、最終原稿についての相互評価と討論のための研究会を、9月以降東北大学内または東北大学東京分室において開催する。これらのために研究会の会場使用料および参加者の旅費の支出を予定している。 なお、科研費の出版助成は残念ながら採択に至らなかったが、出版引き受けの出版社からは、助成金なしでも出版を進める旨の確約を得ており、平成26年度中、あるいは遅くとも平成27年度前半期には上梓の見込みである。
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Research Products
(4 results)