2015 Fiscal Year Annual Research Report
バリ=ヒンドゥー教徒の社会における「空間の圧縮」とその帰結
Project/Area Number |
24520910
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
中村 潔 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 教授 (60217841)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | バリ / 移住 / 慣習 / 共同体 / 起源 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、移住先で新たに築いている「伝統的」組織や「伝統的」儀礼および出身の共同体との関係の維持の現状を面接調査およびフォーカスグループ・ディスカッションによって調べ,ヒンドゥー教徒のバリ人が都市において新たな紐帯を形成しつつ出身慣習村の組織に積極的に関わる事例を記述した。出身地の慣習法共同体の慣習規則に改変をもたらそうとする意図を移住者は示していないが,出身慣習村では,以下のような,移住者が関わることによる帰結と考えられる変化が観察された。 1. 遠方に移住した成員を慣習村組織に位置づける慣習村組織の再編 2. 役職者の選出を含む,開かれた慣習村会議など,現代的行政組織に範をとる運営 3. 慣習村による地場産業の開発 デンパサール市(バリ州都)では,行政村とともに慣習村があり,島内での移住者は新たな慣習村に加入可能だが,出身の慣習村の成員権も保持し続けるのが普通である。他方,ロンボク島西部のマタラム市(NTB州都)では,都市部への新規の移住者を組み込む伝統的共同体はなく,彼らは冠婚葬祭(とくに葬儀)に関する相互扶助組織を作ったり,講(arisan)を組織しそれらに任意に参加することで慣習法村を代替する。それに加え,デンパサール市の場合と同じく,バリの出身地の慣習村の成員権を保持し続ける。 上記の出身村の変化を進めているのは,携帯電話やSMS,SNSなどの通信手段の普及と、毎週末(デンパサール)あるいは,数ヶ月に1度以上(マタラム)の里帰りを容易にした交通の整備によりもたらされた、(主に)高学歴の都市住民(による慣習村への関与)である。過重な負担に思われる出身村との行き来を「起源 kawitan」との関係を保ち続けるため喜びであるという説明を人々はとる。血縁(祖先)を示す起源という語で地縁への絆を意味する語りの存在から,重要概念のひとつkawitanを再考する必要があると考えられる。
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